第51話
「モート! モート! ……今、オーゼムさんを呼んだわ! すぐに来てくれるって!」
モートの耳にヘレンの声が鳴り響いた。
倒れていたモートは遥か過去の記憶が鮮明のまま意識がしっかりとしてきていた。そういえば今日にオーゼムが来てくれるんだった。それでモートの記憶が完全に戻るはずだった。モートは立ち上がり、カジュアル服についた埃を落とした。
「ああ……モート……良かった……」
ヘレンは後ろにいる着飾った人々。貴族の方々をまったく気にせずに、モートに抱き着いた。モートは気恥ずかしくなり、ヘレンを押しのけた。
「恥ずかしいよ……ヘレン」
「え!」
モートは顔を赤くさせて、サロンの産まれた絵画のところへと歩いて行った。果物の乗ったテーブルの傍で、聖母のような女性が椅子に座り。産まれたばかりの赤子を抱いている姿が描かれていた。その背景は雑木林に白い月が浮かび。雑木林の奥から闇夜の教会が見え隠れしていた。
「母さんは……優しい人だった……」
「モート……記憶……感情が戻ったの?」
「え? なんだって?」
突然、ドッと笑い声がサロンに溢れかえった。着飾った人々が笑い出したのだ。そして、「今日はお開きですね」「ええ……今日は楽しかったですわ」「これは、これは……」などの声が所々から聞こえて来た。ヘレンは帰って行く人々を見送るために、仕事に戻った。
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