第49話

 そう、ぼくは死んだんだね。確か、あの時……。

 

 まだ……何も変わっていない……。


 あの時……? 


 一体……?


 ん……?


 何が……?


Wrath 6


「アールブ。こっちよ……!」


 ヘレンのすすり泣きの声以外は、シンと静まり返ったサロンだった。そこで、姉さんの声が聞こえたように思う。元気な声で、溌剌としている。


「ぼくは昔、アールブと呼ばれていたんだね……」

「記憶が蘇ったんですね。モート君」

 オーゼムは喜んで拍手をぼくに送った。

 隣のアリスは目を大きく開けたまま、驚きの眼差しを無言でぼくに向けていた。時折、「モート……そんな……」とぼくの名を呟いては、瞬きをしていた。何故か昔のぼくを知っているかのようだ。


 ヘレンは俯いたきりだったけど、今ではすすり泣きが弱まった感がある。


「本当はバアルという名だけど、姉さんからはそう呼ばれていたんだ。アールブはぼくのニックネームみたいなものだったんだ。でも、ヘレン。今はモートだよ……オーゼム……? ぼくはまだ記憶が全部は……」


「戻っていないのですね。そうですねー。……そのうちですよ。そのうち。さあ、皆さん、モート君の過去の話をしないといけなませんが、その話は明日の午後ゆっくりとしましょうか……。ここノブレス・オブリージュ美術館でしましょう。大丈夫です。モート君の記憶は時間と共に戻って来ますから。それに、皆さん大変お疲れのようですから」

 

 オーゼムはぼくに一枚の金貨を握らせた。


「賭けはあなたの勝ちですよ。……それでは、明日。いやはや、疲れましたねー」

 

 そういうと、オーゼムはこのサロンの4枚の大扉の一つへと向かい。フンフンと鼻を鳴らし瑞々しい花をしばらく眺めてから、こちらに手を振り帰って行った


 

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