第47話
「モート! ありがとう! すっごい強いのね!」
ミリーが涙でクシャクシャな顔をして、モートの血塗られた腕にしがみついた。モートは全身で血に染まっていない箇所が全くないかのような状態だったが、ニッコリ微笑んでやった。
まるで、バケツに入った血液を頭からかぶったかのような姿だった。
「もう、大丈夫だ……」
シンクレアはパン粉の入った大袋を苦労してどけると、モートの傍まで真っ青な顔で走って来た。
「モート? 今のはなんだったの? ねえ、私たちを助けてくれたのよね? 凄い速さでよくわからなかったけど……」
「いや……あ……もう、行かないと……」
涙声でお礼を言うミリーとその家族に、モートは人に感謝されても何も感じなかったので、モートは遠いノブレス・オブリージュ美術館の方へと向きを変えると、そのまま走り去った。今でも震えるシンクレアには、手を振っただけだった。
…………
モートはノブレス・オブリージュ美術館へと帰ってくると正門は、昼間なのにガランとしていたが、中へと入った。受付の女性や使用人たちがモートの血塗れの姿を見て、気を失ったが、モートは気にせずに美術館の奥のヘレンの部屋へ向かい。シャワー室を借りた。
モートが、産まれた絵画のある広大なサロンへ入ると、アリスとヘレン。そしてオーゼムが集まっていた。
「やあ、みんな無事で良かったね」
モートは疲れを感じないので、いつもの質素な椅子に座った。
30個の東洋の壺に13枚の美しい絵画を、アリスもオーゼムもしばらくは、その豪奢な美術品の数々を見て、それぞれ溜息を吐いていたが。俯き加減のヘレンがモートの傍に寄って来た。
ヘレンが真っ青な顔で一枚の絵をモートに見せて囁いた。
「オーゼムさんに聞いたわ……あなたにとって重大な事実を知ったのよ……ああ……モート……」
「……え? ヘレン? 一体? 何なんだ?」
ヘレンの持つその絵はジョン・ムーアの屋敷にあった絵だった。
少し経って、オーゼムがモートが産まれた絵画のところへ深刻な顔で、モートを手招きして呼んだ。モートは絵のことがさっぱりわからなかった。
何故、自分のそっくりな絵をオーゼムとヘレンはぼくに見せるのだろう?
けれども、モートは空っぽな心のような容器が不思議な感じでいっぱいになった。
外は今は昼の粉雪が舞い。仄かな日光が所々雲の隙間から零れていた。
昨日の極低温が嘘のような少し寒いだけのいつもの天気だった。
「では、私から話しますね。あんまりしつこいんで、ヘレンさんには道中に少しだけ話しましたよ……皆さん、ひどくお疲れのようですが、あ、モート君は別だね……。後ほんの少し我慢してくださいね」
オーゼムはモートが産まれた絵画を見つめ、それからアリスもその絵画の前に立たせた。
「アリスさん……。最初にあなたには言わないといけませんね。この絵。今から300年前の絵ですが……。ここからモート君は産まれました。モート君は簡単に言うとプシキコイとサルキコイの中間点という肉体を持つ霊体なのです。そして、この絵は、モート君の過去と深く関わっています。過去から現在まで、モート君はさる理由から300年間もこの絵に閉じ込められていたのです」
モートから見て、アリスはひどく驚いているのが見て取れた。しかし、モートは何も感じなかった。ただただ、不思議だった。
「また最初に言っておきます……モート君は罪人だったのです……実はあの世では命は特に高価なもので、普通。そう簡単にはこの世には生まれないのです……でも、例外があって、モート君は……」
ヘレンが突然顔を突っ伏した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます