第43話

 Wrath 2


「モート君! アリスさんとシンクレアさんが危機的状況です! 早く!」 

「わかった……」


 壁の向こうからのオーゼムの切迫した声を聞き、モートは鮮血で真っ赤に染まった銀の大鎌を構え直し、ヒュッと真横に右手を振った。

 

 瞬間。


 ドシンと倒れだした4匹の巨大な蛇の首なしの胴体は、すでにその息を止めていた。

 モートが向き直ると、ジョンはすぐに血色が良かった顔を鬱にして、身を隠していたテーブルの下からヨロヨロとレビアタンの書をかざした。


 再度巨大な蛇を召喚しようとする。

 

 本が強烈に振動すると、青い炎の暖炉も共鳴するかのように激しく振動した。大部屋の天井から埃が降って来た。まるで、無理矢理蛇を召喚しようとしているかのようだった。


 モートが銀の大鎌を構えた。すると、同時にそれを見ていたヘレンが思い切った行動をした。

 ジョンの左肩目掛けて体当たりをした。

 ヘレンはジョンからレビアタンの書を奪い取ってしまい。女中たちを跳ね除けてモートの元へと駆け出してきたので、モートは一瞬驚いてしまった。ヘレンはそのままモートに抱き着いた。


「ああ、モート……。良かった……。お互い無事で……」

 ヘレンがそうモートの耳元で安堵の溜息と共に囁くと。

 

 バタンという大きな音がした。大部屋の奥の扉が閉まった音だった。モートはジョンや女中たちが逃げ去ったのだと考えた。だが、目前のヘレンに、オーゼムの警告しているアリスとシンクレアを助けることの方が優先だった。

「アリスさんは、ここからは遠い聖パッセンジャービジョン大学の花壇や噴水のある庭にいます! 今は数人の子供たちと一緒です! シンクレアさんは、イーストタウンのロイヤルスター・ブレックファーストのお店にご家族と一緒にいますよ! いいですね、本拠地のお店の方ですよ! モート君。一刻も早くに駆け付けるのです! さあ、賭けの時間です!」

 モートはジョンとは反対の方向へと様々な家具や扉、壁を通り抜けて賭け出した。ジョンを狩る日はあるのだろうかとモートは頭の片隅で考えた。

 けれども、ジョンはもう見つからないだろうとモートは考えた。

 何故ならジョンの魂の色は青色だったのだ。

 

 山沿いの道路や林道を一直線に走り抜け、ヒルズタウンの高級住宅街へと出た。丁度、ここからアリスの屋敷が見える。アリスの使用人の老婆は今でも無事だろう。

 猿の軍勢は人がいるところや人が多いところではなく。何故か建造物が多いところへと向かっている。このままではシルバー・ハイネスト・ポールにも猿の軍勢が占拠しているだろう。


 モートはその全てを狩ることができるが、現時点ではアリスとシンクレアたちの無事が何よりも優先だった。

 空は白い月と黒い髑髏が浮かぶ。

 厚い雲が漂う。

 この上なく凍てついた深夜だった。







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