第41話
壁の方からバタンと大きな音がしたと思ったら、ヘレンは目を疑った。重厚な絨毯の上にモートが倒れていたのだ。
何故? モートは壁や床を通り抜けられるのに?
それが、モートは今では蛇に噛まれたせいか絨毯の上に、おびただしい血を広げていた。
4匹の蛇もそれぞれの扉や窓付近から離れ、モートに大口を開けて向かっていった。
「モート!」
ヘレンはありったけの声で叫んだ。
どこからか男の柔らかい祈りの声がする。
すると、倒れていたモートが起き上がった。
すぐさまモートは銀の大鎌で自分を噛んだ一匹の蛇の首を刈った。
それから、胴体に刈り込み。首と胴体を完全に切り離した。
4匹の巨大な蛇がモートを一斉に襲いだした。だが、モートは銀の大鎌を投げつけた。
大部屋の反対側の壁が破壊され巨大な蛇の胴体を真っ二つにする。
衝撃的な破壊音と振動で、ヘレンは頭を抱えて屈みこんだ。
呼吸を整え恐る恐る向かいのジョンの方を見てみると。
ジョンも女中頭たちも皆、その場で伏せていた。
天井のシャンデリアから幾つものガラスの破片が舞っている。
ジョンはうすら笑いを浮かべながらヘレンにヨロヨロと近づいた。
「ヘレンさん。あなたが本当に羨ましいですよ……。ああ、羨ましい。そうです嫉妬しますよ。モート君をこの場で始末できなくてもいいくらいに……。ヘレンさん。もうしばらくは人質としてここにいてくださいね。このグリモワールはレビアタンのグリモワールといって、嫉妬の書です。あの蛇はこの本から召喚できるのですよ」
ジョンは薄気味悪く笑った。
ザンッ、ザンッ、かなり離れた場所で蛇の首が瞬間的に撥ね上がる音がここまで聞こえる。
ヘレンは離れた場所の首なしの蛇が真っ赤な血をまき散らしながらも、その残りの胴体がモートを襲っていることに、ある種の気持ち悪さを覚えたが、モートの身がこの上なく危ないように思えてならなかった……。
Envy 9
今は午後の11時20分。
アリスはクリフタウンの「グレード・キャリオン」から人通りの往来が激しい大通りにでていた。
アリスはモートとの別れ際に、とにかく人の多いところに居てくれと言われていたのだ。
モートとの食事の後、アリスは「グレード・キャリオン」に避難する前に、近くの喫茶店に寄り道して使用人の老婆に電話で警告をした。
「猿の頭の人間に気を付けて……」
真っ白な雪の道を数人の子供たちと歩きながら、アリスは徐々にその数を増やして襲ってくる猿から逃げるため。聖パッセンジャービジョン大学へ向かうことにした。
シンクレアも無事でいてほしいとアリスは心の底から願った。
「グレード・キャリオン」はすでに猿の軍勢によって、占領される寸前だった。多くの命が散った後、アリスは数人の子供たちと共に店の窓から大雪の降る外へと逃げだしたのだ。
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