第34話 第八章 Envy (嫉妬)
「絶滅した鳥は、どこに載っていましたか?」
「どこに?」
「ええ……。七冊あったんですよね。その中で……どこに?」
「……七冊……」
ヘレンは青い炎の暖炉の傍で耳を疑って青ざめた。
目の前には、以前会った時よりも更に痩せこけたジョンがいた。
女中頭など使用人たちも全員が痩せこけていて、健康的なものは一人もいない。ここジョン・ムーアの屋敷にヘレンは結局一人で訪れた。
嫌な奇妙な感覚をまたしても感じ。ヘレンは青い炎の暖炉に時々目をやりながら、必死に考えた。
大きな窓の外はヒュウヒュウと唸る吹雪だった。
ヘレンはノブレス・オブリージュ美術館からこの吹雪の中。エンストを十回も起こす路面バスで遥々来たのだ。
居ても立っても居られなかった。
オーゼムも一人でモートのいるウエストタウン行きのバスに乗り出し、自分はどうしようかと思った矢先の電話だった。
それはアーネストからの電話だった。
「やあ。今、君にとっても嬉しい知らせが入ったんだ。ジョンの使いの者からの良い知らせだ。本を返すと言っている。本が図書館に戻って来るんだ。ただ、残念だが何冊か欠けているそうだ」
Envy 2
聖パッセンジャービジョン大学の広い講堂ではアリスもシンクレアも白い息を吐いていた。暖房は今は故障中だった。度々故障してしまうストーブは、年代もので、アリスにはこの大学の創立以来あるのではと思えてしまう。
アリスはノートを書き込みながら昨日にオーゼムとの賭けで儲けた大金を、どうしようかと考えていた。
隣のシンクレアが見かねてある提案をした。
窓際から寒さがじわじわと伝わる講堂には、同じ単位を受けるはずのモートの姿はなかった。
「ねえ、それならいいでしょう?」
シンクレアは感極まってアリスの耳元で声を弾ませた。
「ええ。でも……」
アリスはシンクレアの嬉しい提案にも少し考え込みだした。シンクレアの提案したアリスとモートの二度目のデートは、とても魅力的なのはわかるが、元はオーゼムという天使のお金だ。遊びに使っていいのかは、アリスにはわからなかった。
教授がカリカリと難解な数式を書いているのをごまかすかのように見ながら、アリスはヘレンに聞いてみようと頭の片隅で考えた。
次の日は祝日だった。
奇跡的にエンストを一回だけしかしなかった。10時30分着のノブレス・オブリージュ美術館行きのバスが停留所に着くと、アリスは除雪車の行き交う横断歩道を渡り、高価なチケットを買い広大な館内でモートを探すことにした。
しばらく人に聞きながら歩いていると、モートは館内の広々としたサロンの一角にある質素な椅子に座っていた。まるで、いつもそこに座っているような妙に座り慣れた感があった。モートはデートの誘いに対して少し考えているようだったが、首を縦に振ってくれた。
「今は黒い魂も見当たらないし、たまにはアリスの声を聞きたい」
そう言って、アリスとモートはクリフタウンの「ビルド」へ向かった。この前の昼食で、モートはここホワイト・シティで評判な羊肉のソテーを食べ損なったので、アリスは気を回したのだ。レストラン「ビルド」前にあるバスの停留所まで、クリフタウン行きの11時15分の路面バスを使ったが。
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