第29話

 そこで、モートはこのグランド・クレセント・ホテルの屋上を目指した。30階にある屋上へはエレベーターを使った。エレベーター内にも蝿が充満し、隅に置いてある華奢な花瓶に集中している。


 モートは気にせず。最上階のボタンを押した。

 エレベーターが上昇している最中、モートは一連の出来事を考えた。

 考えて整理した出来事の中で、もっとも高い可能性は犯人は屋上にいるということだった。まず、オーゼムは恐らくかなり遠い場所でも魂を見ることができる。そして、ここグランド・クレセント・ホテルの五階にいるモート自身の魂も見ることができた。


 恐らくはモートの魂は黒ではないのだろう。

 そして、グランド・クレセント・ホテル内や近辺には黒い魂はない。

だから、遠いところが見えるオーゼムでも見えなかったはずの屋上しかないと考えた。

 考えは的中し、屋上には、かなり痩せている体格で貧相な男たちが大雪の中で寒そうに、大勢の宿泊客から盗んだありとあらゆる高級な食べ物を大袋へと入れていた。大袋は地面に散乱し、食べ物に手を付けているものもいる。

 

 魂の色は全て黒。

 どうやら、貧困層のものたちのようだ。仕事ができず。一度も食べたときがない高級料理に目をつけたのだろう。

 それも、大勢の死の上で。

 強欲では多くの犠牲に成り立つ金銭欲。

 ここでの暴食は、働かない者の何らかの犠牲を伴う贅沢な食欲。

 モートは早速、一人のガリ痩せの男の持つ暴食のグリモワールを刈った。 

 その後は、次々と抵抗する男たちの首を狩り始める。

 全ての首が屋上から真下のコンクリートまで落ちる頃には、辺りはずっしりとした大雪が降る。真っ白な雪の上には真っ赤になった血が広がっていた。



 今朝のサン新聞には、こう載ってあった。


 グランド・クレセント・ホテル付近から疫病を撒く蝿が大量発生。後に午後16時頃に謎の死滅。多くの人々が呼吸困難、嘔吐、眩暈などの症状を訴えるが。午後16時を過ぎると自然治癒された。グランド・クレセント・ホテル経営者 ロ―グス・シュチュアートは今朝、屋上で集団の首なし死体が発見され、それらが関係しているかも知れないとのこと。警察はこの集団が何らかの関与をしていると発表。目下全力で……。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る