第27話
Gluttony 5
電話にヘレンがでなかったので、モートは急いでいた。何か危険な状況にヘレンが立たされていると考えた。その危険な状況とは一体? 考えてもさっぱりわからない。だが、モートは急ぐことにした。モートはグランド・クレセント・ホテルまで縦横無尽に横断歩道や道路を走る。当然、通り抜けることで事故はない。
不思議とクラクションも鳴り響くこともなかった。
モートは一目散にヒルズタウンへと向かう。
オーゼムを置いて……。
空は大雪が降り出し、鉛色の雲が空全体を覆い。太陽光が完璧に遮断されていた。降る雪が積もると同時に気温が急激に下がりだす。
ヒルズタウンのちょうど中央にあるグランド・クレセント・ホテルが見えて来た。所々、雪の塊がある地面を縫うように走り、すぐに人混みを通り抜けて正面の回転扉へと入ると、エントランスから隣のエレベーターに乗った。
確かヘレンは五階の部屋をとっているはずだ。五階のボタンを押そうとしたが……。突然、一階が騒がしくなった。無数の羽音と人々の悲鳴が木霊する。
それでも、モートは五階のボタンを押した。
五階へとエレベーターが着くと、豪奢な壁画や花瓶などが飾られた廊下の真ん中でヘレンや他の宿泊客たちが倒れていた。モートはヘレンに駆け寄った。
ヘレンは全く息をしていなかったが、変わりに32歳だが若々しく美しい顔の全体が赤く腫れあがり、浮き出た血管がドクドクと大きく脈打っている。
だが、ヘレンは生きている。その証拠にヘレンの魂はこれ以上ないほど赤い色だったからだ。モートは呼吸困難を何らかの毒か病気と考えた。
オーゼムを連れてこなかったのが、悔やまれるが。次の行動をした。
廊下の真上にあるシャンデリアを中心に、無数の蝿が舞っている。原因はこの蝿だと考え。瞬間、全ての蝿が銀の大鎌で真っ二つに分かれていった。蝿の断片がパラパラと落ちる。
「オーゼム……」
ヘレンの容態は徐々に悪化していく。
魂の色全体が弱まってきた。
だが、モートにはどうすることもできなかった。
その時、503号室の電話のベルが鳴る音が聞こえてきた。
モートはすぐさま503号室に駆けだして、広々としたベッドの端にある電話にでた。
モートは電話の主が誰なのかもわからない。この部屋がヘレンの部屋なのかもわからなかった。ただ、一連の助かる可能性が他になかったからだ。
「きみは、たぶんモート君だね?」
電話の主はやはりオーゼムだった。
モートは早口でヘレンが倒れたのと、無数の蝿のことを伝えた。
「私は今、クリフタウンの「ビルド」というレストランにいるんだ。だから、手を貸せないけど、それは暴食のベルゼブブのグリモワールだと思う。疫病を扱うんだ。その蝿は。だから、ベルゼブブのグリモワールを狩ってくれないか? ヘレンさんはそれで元通りになるはずだよ。頼んだよ。モート君」
オーゼムも早口で伝えている。
モートと同じく。オーゼムも何らかの可能性だけで行動をしているのだろう。
「さあ、賭けをしよう。モート君。勿論、ヘレンさんの命が助かる方を賭けるんだ!」
モートはオーゼムが何故色々と知ることができたのかは、気にせずに受話器を置くと、急いでグリモワールを持つ犯人を捜しに行った。
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