第23話
ヘレンは奇妙な感覚を持ちながら、オーゼムという人物を探しに一階への階段を探した。
パンの匂いが強くなるほど、地上に近づいているとヘレンは思った。
数メートル歩くと。
オーゼムという名の男は、すぐに見つかった。
一階へと上がる木製の階段付近に立っていたからだ。
オーゼムは、すぐにこちらに手を振って「私はオーゼム・バーマインタムという名の男です。モート君の友人です」とニッコリと自己紹介をした。
しかし、「いや……これは……?」急にオーゼムは険しい顔付きになって、薄暗い地下の奥へと目を向けた。
途端に、ドン! という強い衝撃音と共に、地下全体が激しく揺れだした。
奇妙な複数の足音が少しずつ近づいてくる。おぞましさをも覚えるその足音の群れは、例えるなら何らかのカサカサと動く。そう、昆虫の足音だった。ヘレンは後ろを向いて悲鳴を上げた。
その足音の主は、大蜘蛛の大軍だった。
「これは……マモンの書からの召喚!」
オーゼムが叫ぶと同時に、モートが目にも止まらぬ速さで走ってきた。銀の大鎌で複数の大蜘蛛に致命傷を負わせる。
「オーゼム! 何が起きたんだ! ギルズが何かの本をかざしていたら……あの大蜘蛛の大軍が現れた! 黒い魂ではないけど、狩りの対象なのはよくわかる!」
大蜘蛛の大軍は、鉄骨を楽にへし折り、天井まで壁を走りだし、店の外へと雪崩れ込もうとした。
「ここは、商店街です! モート君! 早くに大蜘蛛を全て狩ってください! 大勢の命が失われます!」
モートは一階へと続く階段を駆けだして外へと飛びだした。
外へでると、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
至る所で、人々の悲鳴や怒号が鳴り響く。
「グリーンピース・アンド・スコーン」のパン屋からワラワラと這い出てくるおぞましい大蜘蛛の大軍は、人々を次々と捕食していった。
モートにとっては、生まれて初めての光景だった。
すぐさま、銀の大鎌を振り。真っ白な蜘蛛の糸でグルグル巻きになっていた近くの青年を助けだした。
「この世の終わりだ!」
銀の大鎌で蜘蛛の糸を全て切断すると、自由を取り戻した青年はそう叫んでどこかへと走り去って行った。だが、別の大蜘蛛に捕まり、頭から齧られ絶命した。
モートはこの惨状をどうしていいかわからなかった。
今では、大蜘蛛の大軍は通行人だけの捕食では飽き足らず。商店街の店や建物を破壊しては、中の人たちも襲うようになっていた。
地面の真っ白い雪の上には、人々の赤い鮮血が凄まじい勢いで広がっていく。
もはや柱を破壊され垂れ下がった天幕は破け散り、その裂け目からはシンシンと降る雪が無情にも人々の破損した死骸の上に落ちている。
モートは、大蜘蛛の大軍と苦戦を強いられる。
銀の大鎌を振り、大蜘蛛の大口の一部を刈り取った。大蜘蛛は人声にも似た悲鳴を発し、すかさず白い糸をモートへ向かって吐きつけた。
モートは避けるが、左腕に糸で巻きつかれてしまった。
普段は壁や床などを通り抜けることができるモートだったが、対象も同じ存在なのだろう。通り抜けられなかった。恐らく体当たりでもされたら、モートはその巨体による強い衝撃で遥か後方へと吹っ飛んでしまうだろう。
どうしても糸がほどけそうもないと判断したモートは、そのままの状態で今度は大蜘蛛の顔面目掛けて銀の大鎌を投げつけた。
それは、大回転をし。前方の複数の大蜘蛛を掻っ捌いていく。
銀の大鎌が回転をしながらモートの元へと戻って来た。
それを左腕は使えないので、右手のみで受け取った。
しばらくすると、モートの狩りで大蜘蛛の数も減り。
生きている人は、皆、避難できたとモートは信じた。
だが、辺りを見回していると、真横から突然一匹の大蜘蛛が右腕に噛みついていた。
モートは痛みも気にせずに、銀の大鎌で大蜘蛛の頭部を刈り取る。噛みつかれた右腕からは銀の大鎌が持てないほどおびただしい痛みと出血があった。
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