第22話
数分後には、バスに揺られているうちに、その感覚を完全に忘れてしまっていた。
道中、バスがエンストを六回ほどしてヘレンがうんざりしていると、商店街の中にある「グリンピース・アンド・スコーン」の大きなお店の看板が見えて来た。バスの停留所からヘレンは降りると、商店街の空を覆う天幕に助けられて、乾いたブーツを鳴らしながら、人混みの中で店まで歩いて行った。
今の時間帯は商店街は人が疎らで、天幕にたまに覗ける穴からは、空には白い月が見え隠れしていた。
時計を見ると18時だった。
ヘレンはモートの狩りの日は、いつも白い月が空に浮かぶことを思い出し。心強く思った。「グリーンピース・アンド・スコーン」の正面ドアを開けると、店の人は誰もが陽気な歌を歌うかのような明るい男たちだった。
こんな時間でもレジに並ぶ人々が大勢いる。
ヘレンは店の一人に尋ねた。
ジョン・ムーアから聞いた男の名を……。
Greed 3
19時30分。
モートとオーゼムは閉店時間を30分過ぎた「グリーンピース・アンド・スコーン」の店の前にいた。空は美しい白い月が天幕の隙間から輝きを増していた。
「狩りの時間だ……」
モートはそう叫ぶと、隣のオーゼムを置いて店に走り出した。
Greed 4
「一体! 誰の差し金なんだ!」
ヘレンは銃を持った男たちによって、地下のパン粉が床に広がった一室で拘束されていた。身動きができないほど、多くの銃が向けられていた。
その中にはリボルバーやトンプソンマシンガンなどもある。
「知らないわ! ただ、私はグリモワールを図書館へ返してほしいだけなの! 落ち着いて! 本の行方と共にジョン・ムーアという人から聞いただけなの!」
「ギルズのボスの名を知っている奴は、サツか対抗組織の差し金しかいねえんだよ!」
別の一人が吠えた。
「もう撃ってしまおう! 誰だかわかんねえがその方が早いぜ!」
ヘレンはただ混乱する心を落ち着けせるようにして、ギュッと目を閉じた。
瞬間、パーンという破裂音が数発した。
ヘレンはその轟音に耳を塞いで、うずくまった。
けれども、ヘレンは痛みもなく。身体に異常は全くなかったように思えた。
その銃声に、何が起きたのかと恐る恐るゆっくりと目を開けて見上げてみると、視界には首なしの死体が大勢突っ立っていた。
「モート……!?」
男たちの弾丸はあらぬ方向へと発射されていた。ヘレンの立つ部屋の中央からは程遠い。後ろの天井近くの壁に複数の弾丸による穴が空いていた。
「ヘレン。もう、大丈夫だよ」
目の前には、おびただしい血のりのついた銀の大鎌を持ったモートが静かに立っていた。
ヘレンは感極まってモートに抱き着いた。
「……ああ……モート……」
「あれ? ヘレン? この連中の親玉はここにはいないのかい? あの男たちから何か聞いているかい? 黒い魂が一つ足りないんだ……」
ヘレンも首なしの男たちのライトに照らされた周囲を見回しては、親玉であるギルズはいなかったと答えた。
それを聞いて、がっかりとしたモートにヘレンは連れられ部屋の外へと出た。床一面に積もったパン粉には、恐ろしいまでの量の血のりが付着し、突っ立っている死体はそのままにした。
鉄筋コンクリートの壁が連なる通路をつたうかのように、地下から外へと出ようとしていたヘレンは、何か奇妙な感覚を覚え壁に空いた穴を発見した。穴は深く。深い闇だった。そして、遥か下方へと続いている。
さすがに怖くなってヘレンは傍のモートに聞いてみることにした。
「モート。ここは地下一階だけど……まだ更に地下があるみたい……そこには……きっと……」
「ギルズか?」
すぐさまモートは大鎌を持ち直し、鉄骨の間にあるその穴を奥へと歩きだして行った。
ヘレンには遠い声でオーゼムを探してくれとだけ言った。
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