第21話
黒い魂だった。
青い魂の客の一人がクリームパンとフランスパンをレジに持ってきた。
モートは数字をレジで打ってから少し右手を振った。
瞬間、間隔の空いた男たちの首が全て飛ぶ。
首なしの立ったままの五人の死体に、お客が鋭い悲鳴を上げるが、オーゼムがすぐに死体を光の奥にしまうと、この狭い店内には、静寂が支配した。
「オーゼム? 遺体から居場所を知りたかったのだけど……」
モートは苦笑いする。
「大丈夫ですよ。モート君の調べているグリーンピース・アンド・スコーンという名のパン屋はクリフタウンにありましたよ。モート君は、何故私がそれを知っているのか? といった顔ですね。簡単ですよ。対抗組織はそこしかない。いや、黒い魂が大勢ある場所がそこしかないんですよ」
モートは感心して、早速狩りに行こうとした。オーゼムがグリーンピース・アンド・スコーンの名前と場所を知っているのなら、同行するまでだ。そこで、ミリーはもう大丈夫だと考え、シンクレアの家まで送ってから、オーゼムとクリフタウンへと向かうことにした。
16時に、バスの停留所でオーゼムとミリーと立っていると、空からは灰色の粉雪が大雪から一変しパラパラと降り始めていた。辺りは既に薄暗い。人が疎らの路面バスが到着する頃には、三人とも外套が雪によって湿ってきていた。モートはしばらく会っていないが、アリスの声が懐かしく想えた。
Greed 2
ヘレンの今日は滞在中のホテルからクリフタウンへと足を向けることにした。軽くジョギングをして朝食を取り。聖パッセンジャーピジョン大学付属古代図書館の館長と今日の予定を電話で話し、昼食を取ると地図と荷物を持ち出して部屋に鍵を掛けた。
昨日のジョンの話では、例のグリモワールを借りた人がクリフタウンにいるようだった。その人の仕事は、とあるパン屋だとわかった。
パン屋の名は「グリーンピース・アンド・スコーン」だ。
停留所で、エンストをしょっちゅう起こす路面バスには、辟易しているが、ヘレンは早めにクリフタウンへ行きたかった。
どうしても、忙しい時間帯を避け閉店時間を過ぎる頃を狙いたかった。
数十ブロックも先のパン屋まで、辛抱しさえすればそれでいいのだ。
冬物のブーツを履いていたことに、すぐに後悔した。
ホワイト・シティではよくあることだが。
靴の湿り気が、この上なく気になって来たのだ。
停留所で少し足踏みして待った。
七つの大罪の記されたグリモワールとは? グリンピース・アンド・スコーンの誰が持っているのだろう? 危険は無いにこしたことはないが。ヘレンは何故か胸騒ぎが治まらなかった。
雪を被ったバスがノロノロとウエストタウン方面から走って来た。
ヘレンは瞬時に、モートの警戒した横顔を思い浮かべたが、頭を軽く振ってしっかりとした足踏みでバスに乗った。
滞在しているヒルズタウンのホテルからクリフタウンへと行く途中。バスは周囲の車の流れの中。ノロノロと走るので、ヘレンは居眠りしそうになっていた。
眠気覚ましに何気なく乗客の声に耳を傾ける。
「なあ、前に話したっけ? 俺がいつも行くパン屋で、不思議と早朝にはドアには決まって蜘蛛の糸が張り巡らされているんだよ。何だか、掃除はもっと早くしないとだよなー」
「ああ、確か聞いたな。その話。あそこのパン屋は美味くて評判なんだがな」
ヘレンの斜め後ろの席からの会話だ。
「グリーンピース・アンド・スコーンって言ったら、ここ最近は店の売り上げがめっぽう大きくなったって噂を聞いたぜ」
「ああ。今度、俺も立ち寄ってみようかな」
ヘレンはその時。何とも言えない奇妙な感覚に襲われた。けれども、気にしないことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます