第47話 カオスパーティ当日 2
なんとなく、謎の緊張感漂うパーティだった。
人数が少ない上に、恋敵同士を詰め込んでいる。
更にそれを狙うハゲタカ令嬢も、余りをどうぞと言わんばかりに招待してある。
中和剤的に、機転の利くアーノルドと美人のルシンダを付けておいたから、後はどうとでもしなさい的な何か?なのかしら? 母の采配なのであって、私が決めたわけじゃないのだけど。
「では、僕から申し込んでもいいかな? シュザンナ」
ケネスがグレーの目をきらりとさせて申し込んだ。
しっかり牽制に来るケネス。
「あの二人、服の色を合わせてきているわよね」
ルシンダがアーノルドに話しかけているのがチラリと聞こえた。
しかし、別の音声が混ざってきた。
「豪華ね。あのランプ、高そう」
「さすがは公爵家ね。椅子にまで全部紋章が入っているわ。食事の時の銀食器の光り方が違ったわ。記念に持って帰りたいくらいだった」
ジェーン・マクローン嬢とミランダ・カーチス嬢は、あちこち見まわしてはこそこそとささやき合っていた。聞こえてますってば。後でトマスに銀のカトラリーの本数を確認するように言っておかねば。
私たちが踊り終わって戻ってきた時、ウィリアムが誘いに来た。
「踊ってもらえますか?」
何か本気臭い。ケネスも独り占めできるわけではないので、仕方なくだろうが譲った。
途端に、ケネスは二人の令嬢、ジェーン・マクローン嬢とミランダ・カーチス嬢に囲まれた。
その様子を見たオスカー様が苦笑いしているのが見えた。
二人の令嬢は、地位より顔を取ったらしい。
こっそりアルバートとルシンダが、オスカー様の後ろに移動していくのが見えた。
ダメだ。あの三人はケネスの危機を面白がっている。止めに入るより見物に専念する気だ。
ケネスをちゃんと見張っていたかったのだが、いきなり手を強く握られて、ウィリアムの方に目を戻さないわけにはいかなかった。
「ケネスばっかり見て」
彼はあきらめたように言った。
「あんなこと言ってたけど、ケネスが好きだったんだ。ケネスなんかどうでもいい、とか、あんな婚約者要らないとか言ってたのに」
ウィリアムが詰め寄った。
「信じた僕がバカだったと」
「あの時はケネスに嫌われていると思っていたのですもの。婚約者と言っても名ばかりで」
「今も同じでしょう。いや、もっと悪化している。もう婚約者ではないよね? 婚約出来なかったらどうするの?」
「え?」
すうう……と心の底が寒くなった。
自分では頑張っているつもりでも、世の中には通用しない?
「君の母上は、絶対に反対している」
ウィリアムが容赦なかった。
「君に拒否権はないんじゃないかな? 相手は僕じゃないらしい。オスカーらしいけど」
ウィリアムはダンスのために軽く手を取っているだけにしなくてはいけないのに、強く握っていた。
「オスカーはケネスの友達だ。オスカーはうんと言わないだろう。君との結婚を断るだろう。だが、君の母上は、ケネスが君の良縁を潰したと余計ケネスに悪意を抱くかもしれない」
私は黙っていた。
「僕の家は侯爵家ではない。伯爵家だ」
「爵位なんて……」
私はつぶやいてみた。実際には重要問題だってわかっていたのだけれど。
この世の中は、空気を食べて生きていけるわけじゃない。そんなに甘くない。
職位や領地があれば、それだけで安心なのだ。
「僕は君のことが好きだ。好きだ。ケネスともオスカーともうまく婚約できるとは限らない。今は何も決まっていないんだ」
「バーカムステッドのオスカー様とは、何のお話もないのよ」
ウィリアムはきっとなって私の顔を見た。
「そんなわけない。ヤツの顔を見ればわかるよ。君ばかり追っているじゃないか」
いや。バーカムステッド家のオスカー様は、大体、ロクなことを考えていない。彼は、オズボーン家とモンフォール家のいざこざに興味があるらしい。
「私にはわからないわ。そんなことはないと思う」
もしそうだとしても、母は当人同士の意向など考慮に入れない。
「つまり、ケネスもオスカーもうまく行かなくなったら」
そんなことまで考えていたのか。
「可能性はある」
彼は繰り返した。
「可能性はある」
私は混乱してきた。ウィリアムはこんな人じゃなかったはずだ。友達のはずだった。
「その時のことを考えた。申し込みをしてくれと、伯父と両親に頼んだ」
「ウィリアム!」
ウィリアムが、ウィリアムじゃないみたいだ。
「……あなたらしくないわ。違う人みたい……」
「僕らしくないって? でも、君も君らしくないよ。人に逆らうなんて、好きじゃないだろ? 得意じゃないよね?」
「でも、それはやらないといけないと思ったから。結婚の為だけじゃないわ。私、私、自分の為だと思うの」
「あのケネスなんかのために」
ギラリと本気の憎しみがウィリアムの目に宿った。
「あんな顔だけの」
メアリ・アンとロンダの言葉が思い出された。
「見ろよ」
ジェーン・マクローン嬢とミランダ・カーチス嬢が囲い込むようにケネスの両隣りに座り込み、しきりと話しかけていた。
「あんな調子だ。これからも続くぞ。ヤツは男前だ。女性を引き寄せる。君みたいな静かでおとなしい女の子は、いいようにあしらわれるだけだ。きっと愛人とか……」
「ウィリアム、どうしてそんなことを言うの?」
「すまない。だけど、君を不幸にしたくない」
「どうして決めつけるの」
全然ウィリアムらしくない。私は赤毛で実直そうなウィリアムの顔を見つめた。
彼はため息をついた。
「今のは嘘だ。何を言っているのかわからない。あいつが憎いだけなんだろう」
彼はジェーン・マクローン嬢とミランダ・カーチス嬢を身振りで指した。
「好きになれるか? あんなハゲタカ令嬢を? それと同じだ」
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