【Gコラボ とにかく人狼だっ①】

「アイマスクとヘッドホン、皆さん外されましたね?それでは、始めます」


 全員を眺めて、『灰色狼』はここで一度、言葉を切る。誰かが唾を飲む音さえ聞こえそうな、嵐の前の静寂。

 ルールブックに視線を落として、『灰色狼』がゆっくりと口を開いた。


「朝になると、村長の無残な死体が発見されました。……みなさん、5分の話し合いの後に、村から追放する者を投票で決めてください。では、話し合いのスタートです」


「「「……………………」」」


「……いや、誰かしゃべれよっ。それでもゲーム実況者かっ」


 半笑いで『アス』がすかさずツッコミを入れる。


「姫さぁ。そのツッコミ、夜のうちに考えてただろ?」


 ニヤニヤしながら言った『マサ』に、『アス』は視線も向けなかった。


「オメー、つぎゲーム中に姫って言ったら雪山に埋めっかんな?」


「こわっ」

「『アス』~、こわいよ~。また不仲説でるからやめな~?」


 『kunちゃん』と『Aちゃん』がすぐにツッコミとフォローにまわる。


「身内ネタ禁止にしますよ?『きたぐに』のみなさん。人狼を見つけないとね?」


 『ムンクさん』がの一言で、さあっと部屋が静かになる。グループ外からの指摘に、慌てた表情になったのは『きたぐに』リーダーの『マサ』だった。


「あ、……あれじゃね?アイマスクしてヘッドホンした時に、占い師は占ったわけじゃんか?まず占い師の結果発表からじゃね?」


 そんな提案をする。それに『虎鉄』が反論した。


「でも、占い師が名乗り出たら、絶対にその日の夜に人狼に殺されますよね?」


「あー!そっかっ!危ねぇーっ!」


 身を乗り出そうとした『アス』が、慌ててその身体を引っ込めた。『近藤』はそれを観察しながら、


「『アス』さん、なにが危なかったんだろ。気になるわー」


 と腕を組みながら呟く。それを確認してから、『ムンクさん』が口を開いた。


「でも名乗り出れば、狩人が守ってくれて犠牲者は出ないのでは?」


「え……。あ、それもそっか。じゃあ名乗り出まーす。アタシ占い師でーす。『kunちゃん』は村人でしたっ。狩人さんアタシを守れよ!……絶対にっ!」


「え?」


『アス』の大きな声に驚いたのは、彼女に村人と言われた『kunちゃん』本人だった。


「まままま、待ってっ!おれおれ……、お、俺が占い師っ!」


 両手をバタバタとさせて、そのまま自分を指さす。すかさず彼を『アス』が睨む。二人の目が合った時には、彼女の口が大きく開かれていた。


「嘘だっ!!」


「嘘じゃない、嘘じゃないっ!ひぐらしが鳴っころにみてーなセリフ吐くなっ!」


「じゃーさー、なんですぐに名乗り出なかったわけ?」


「しょ、初心者だからに決まってんじゃんかっ!」


 『きたぐに』筆頭二人の掛け合いに自然と笑いが起こる。それが落ち着いてから、『虎鉄』が口を開いた。


「占いの結果を教えてもらってもいいですか?」


 『虎鉄』と『kunちゃん』の視線が合う。『kunちゃん』は視線をそらして、全員を眺めた。


「え?あー、えーっとねー……。『Aちゃん』が村人だった……よ?」


 『Aちゃん』と『kunちゃん』の視線が交錯する。


「どっちも外してんじゃねーか。運ねえなあっ」


 すかさず『マサ』のツッコミが飛んだ。食い気味に村人認定を受けた『Aちゃん』が、


「えー、待ってよー。占い師は一人なんだからさー、どっちかが嘘を吐いていることになるよね?」


 と顎に指をあてながら疑問を口に出した。


「そっか。『Aちゃん』さん、鋭いですね」


 『虎鉄』が合点のいった顔をする。疑問の目が向いた『アス』が、唇を尖らせた。


「あ、もしかしてどっちかが人狼ってことになっちゃう系?」


 すかさず『ムンクさん』が口を開く。


「いや、どちらかというと狂人の可能性が高いのがセオリーなんですが、みんな初心者なので、どう嘘を吐いてるのか読めないですね」


「あとから言い出した人が怪しいかなぁ?でもそれを見越して先に言った可能性も……ある?初心者だったらそれってすごくないですか?」


 首を傾げた『虎鉄』が『ムンクさん』に続いて自分の意見を述べた。『マサ』が手を頭の後ろで組んで、


「わっかんないね。じゃあ、占い師を守る狩人は誰なの?」


 そんな疑問を口にした。


「……………………」


 発言に満ちていた空間が、ひっくり返ったかのような静寂。その異様な静けさに『マサ』は再度、豆鉄砲を食らったような顔をして口を開いた。


「え?なんでみんな黙るの?ははっ、え?俺、なんか変なこと聞いた?」


 『ムンクさん』が、キョロキョロとしている『マサ』に口角を上げながら視線を向ける。


「『マサ』さん。説明があったでしょう?狩人は自分自身を守れません。人狼に狩人だとバレれば真っ先に殺されてしまいます」


 間を置かずに『近藤』が、


「それが気になっちゃうってことはさー、そういうことなのかなー」


 と、いまだに天井に目を向けたまま言う。


「え?え?どういうこと?なんで疑われんの?えっ?俺、ただの村人よ?」


「ねえ、庇うわけじゃないんだけどさ。アタシもどういうことか、さっぱり分かんないん……」


 『アス』が疑問を口に出している途中で、『kunちゃん』が、


「あっ!」


 となにかに気が付く。実況者たちの肩がびくっとなるくらいの声だった。そして、


「狩人を殺そうと狙ってる人狼の可能性が高いってこと?」


 そう続けた。


「あーっ!そっか!!」


 と、リアクションしたのは『アス』。


「やっらかした!やっらかしたっ!」


 ここぞとばかりに日頃のなにかを込めて『Aちゃん』が『マサ』を煽る。身体を後ろに下げながら『マサ』は手を振って、


「いやいやいや、俺は村人だからっ!やめてくれよ!追放されたくねーよっ!」


 そう否定したのだが、もう遅かった。

 『灰色狼』の声が上がる。


「5分が経過しました。投票に移ります。では『ムンクさん』から指名投票してください」


 胡坐をかいて腕組みをした『ムンク』さんが、頭を左右にゆっくり傾けながら、


「うーん、申し訳ない。これは『マサ』さんですね」


 そう告げた。他の実況者たちもそれに続く。


「『虎徹』さんは?」


「『マサ』さんで」


「『アス』さん?」


「正直よく分かんねーけど『マサ』!」


「『Aちゃん』さん?」


「バイバイッ!『マサ』」


「では『近藤』さんは?」


「『マサ』さんだねー」


「『kunちゃん』さん」


「『マサ』。これは仕方がないね」


 最後に『灰色狼』が残念そうな表情を浮かべて『マサ』に身体を向けた。


「では、……『マサ』さん」


 鼻と眉間に皺を寄せて、天を仰ぐ『マサ』。そのまま苦悶の表情で俯いてしまった。


「マジ最っ悪!もう俺は俺でいいよ、投票先……」


 『灰色狼』が全員に向き直り、


「では、投票の結果が出ました。『マサ』さんは村から追放されます。なにか言い残すことはありますか?」


 もう一度、『マサ』に視線を送った。


「……俺は村人だって言ったからなっ!満場一致で投票しやがって!こっ、こんな村はやく滅びちまえっ!うえーんえんえん……」


 グーにした手を目の下に持っていく。


「グーを目の下にやるな。声しか使わねーんだって。……あと前にも言ったけど、それかわいくねーから」


 『アス』が辛辣な言葉を送る。辛辣だが、視聴者には『マサ』がどのような動きをしたか分かるところは、さすが実況者というところだろう。


「い、以上ですか?」


 『きたぐに』の言葉の応酬に『灰色狼』は引いてしまっている。『マサ』にそれだけ聞いた。


「……はい」


「で、では、夜を迎えます。『マサ』さん以外は、アイマスクとヘッドホンをして下さい」

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