【Gコラボ とにかく人狼だっ②】

「朝になりました。昨晩の犠牲者は…………」


 2回目の、長いくらいの間と静けさ。


「狩人によって守られ、犠牲者は出ませんでした」


「あ……」

「おおっ!?」

「マジ!?やったじゃん!」

「よーし」


 それぞれのリアクションを遮るように、『灰色狼』が進行の言葉を全員に向ける。


「それでは、話し合って追放する人を決めてくださ……」


 みなまで言葉を聞かずにハイテンションで喋りだしたのは『アス』だった。


「おもしれぇえええっ!面白いね、人狼って!あ、占った結果は『ムンクさん』が村人ね」


「ちょ、ちょっと待てってっ!俺が占い師だってのっ!」


 『kunちゃん』が慌てた素振りで否定の言葉を『アス』にぶつける。


「『kunちゃん』。そのくだり、さっきやったから。アタシが占い師だって視聴者も絶対わかってるからっ!ムダムダムダのディオ様ってこと!」


 楽しそうに不敵なセリフを吐く『アス』。誰が聞いても、このゲームを心底楽しんでいることが、言葉から伝わってくる。

 続いたのは『虎徹』だった。


「あの、『kunちゃん』さんは、占った結果は誰だったんですか?」


 卓の上に手が伸びて、指先が彼女に向いた。指さしたのは『kunちゃん』だった。


「ふっふっふ……。しらじらしい顔をするなっ!『虎徹』さんっ!あんた、人狼だろっ」


 『アス』にも負けない不敵な笑みをその顔に浮かべている。その顔を、涼しい顔をして『虎徹』が見返す。


「え?違いますけど?そうすると、狂人もしくは人狼が『kunちゃん』さんの可能性が高いですね」


「えぇえ?『kunちゃん』、そうなのー?」


 反応したのは『Aちゃん』の高い声だった。力なく腕をおろした『kunちゃん』。眉間に皺が寄り、口がへの字になっている。いまにも泣き出しそうだ。


「バカバカバカっ!『Aちゃん』、騙されるなって!俺が占い師で、人狼が『虎徹』さんで、仲間が『アス』なのっ!なんで!?なんで俺が狼側みたいになってんの?おかしーじゃーんっ!」


 座卓をドンドンと叩いている。


「うーん、前回が満場一致で『マサ』さんになったのが悪いかもねー。万が一『マサ』さんが人狼じゃなかった場合、判断材料がなくなるからさー」


 ずっと天井を仰いだままの『近藤』がそんなセリフを吐くと、すぐに『マサ』が、


「え!?俺のせい!?」


 とリアクションした。『灰色狼』が手でそれを制止する。


「ダメです。追放者や死人は話してはいけませんよ?」


「ねー、お願いっ!『近藤』さん、信じてっ!俺が本当の占い師なんだって!」


 『kunちゃん』の悲痛な嘆願が部屋に響く。仏壇の上に飾ってある彼のご先祖様にまで届きそうなくらいの必死さだった。


「はいはい。必死になって嘘ついて。アタシは人狼を当てられなかったけど、自分が占い師だって分かってっかんねっ」


 あしらう『アス』。ここでムンクさんが手を挙げて二人を制止しながら口を開いた。


「ま、待って下さい。これじゃ水掛け論だから。……他の人はどう思います?私は『アス』さんが占い師かなって思ってるけど」


「えぇえーっ!『ムンク』さん、なんで!?なんで誰も俺を信じてくれないわけ!?」


 『ムンクさん』の意見にあからさまに肩を落とす『kunちゃん』。残り時間も少ないためか、それを無視して『ムンクさん』は天井を見上げたままの『近藤』に向き直った。


「……『近藤』さんは?」


「うーん。『アス』さんが狂人もしくは人狼の場合、庇ってる『ムンクさん』は人狼だよねー。その場合『kunちゃん』さんが本当の占い師になって、『虎徹』が人狼ってのが本当のことになっちゃうかなー。でもこれは、もし二人、人狼が残ってる場合ね?さっきみんなで『マサ』さんが人狼って決めたばっかだからさー。……『kunちゃん』さんが狼側の場合は、逆に『虎徹』が村人の可能性が高くなるよねー。で、俺としてはさっきのやり取りを踏まえて、なーんで『kunちゃん』さんが『虎徹』を、『アス』さんが『ムンクさん』を占っちゃったのか気になってるかなー。どっちもお互いを占いそうなもんだと思ってたんだけどさー」


 『近藤』の解説と疑問に真っ先に反応したのは自称占い師の二人だった。


「えー!?そういうもんなの!?アタシはヤマカンで選んで村人だったんだけど……」


 まず『アス』が頬を掻きながら答える。


「俺も……、適当に選んだ」


 マイクに乗るのか心配になる声を出したのは『kunちゃん』。誰にも信用されていない彼は、録音を忘れるくらいに声が小さくなって落ち込んでしまっている。

 『近藤』さんがその言葉に頭をグシャグシャとしながら、やっと頭を下げて実況者たちと目を合わせる。


「あー、やばい。ちなみにさー、人狼が二人残ってた場合、ここで人狼を追放しないと、俺が……、じゃない」


「俺が……?」


 言葉を不自然に切った『近藤』に、すかさず『虎徹』が尋ねる。


「いや『虎徹』、なんでもない」


「あー、分かりました」


 静かに、しかし確実になにか納得した素振りをしたのは『ムンクさん』だった。


「すごいなぁ。『近藤』さん、人狼って初めてじゃないの?」


 『Aちゃん』がそんなことを『近藤』に聞く。


「あー……、このゲームの企画者だしねー。興味があったからルールだけは知ってた。やるのは初めてだけどねー」


 ここで、『灰色狼』が挙手すると、全員の目がそちらに向いた。


「時間になりました。投票に移ります」


 そつのない進行に、『アス』が身を乗り出す。


「えー!?『Aちゃん』の意見聞いてないよーっ!?」


「『マサ』に投票したからには、僕は……、『アス』を信じようかな」


 『Aちゃん』は『アス』に向かって微笑みながらそう言った。ふふん、と『アス』が『kunちゃん』を見下ろしたが、『kunちゃん』はもうそれに反応すらできないくらい落ち込んでしまっているのだった。


「投票に移るので発言はそこまでです。では『ムンク』さんから」


 額に指をやって悩みながらも、『ムンクさん』は、


「うーん、難しいな。そうですね……、『kunちゃん』さんで」


 そう答える。


「……『虎徹』さん」


「『kun』ちゃんさん」


 『虎徹』が『ムンクさん』に続く形になる。


「『アス』さんは?」


「アタシが占い師なんだから、『kunちゃん』が邪魔だよねー」


「あ、まずいねー」


 なにかにやっと気付いたかのように、『近藤』が急にそんなことを言い出す。片手で頭を抱えながら。それを『灰色狼』は、


「『近藤』さん、投票時以外は話さないように。『Aちゃん』さん?」


 そんなセリフで制止し、ゲームを続けた。


「えー……?なんかマズった?……で、でも『kunちゃん』で!」


「『近藤』さん」


 無表情の『灰色狼』に対して、後悔した表情の『近藤』なのだが、残念ながらこれはリスナーには伝わらないだろう。それでも、劣勢を悟った『近藤』はそんな表情をせずにはいられなかった。


「『虎徹』で。人狼は『虎徹』と『ムンクさん』だ?これは負けかー……」


 答えはしなかったが、『灰色狼』が微笑んだ。それで、『近藤』は自分の考えが正しいことを悟る。


「……『kun』ちゃんさん」


「だから俺が占い師だって言っってんじゃーん。おそらくもう意味ないけど。……俺は占いどおり『虎徹』さんで」


 吐き捨てるような態度と言葉に、小さな声で「あー、ごめんよぉー……」と『近藤』が呟いた。


「では、『kunちゃん』さん4票で『kunちゃん』さんは村から追放されます」


 ここで大きく間をとって、『灰色狼』は嬉々として次のセリフを続けた。


「……夜を迎えますっ。みなさん、ヘッドホンと目隠しをして下さい」

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