【Gコラボ 人狼説明会①】
雪合戦を終えて、大所帯となったゲーム実況者たちは『kunちゃん』の家の畳の部屋に集まっている。二、三週間前に『きたぐに』が会議を行った仏壇の間だ。すでに全員が玄関で上着を脱いで、顔のマスクやサングラスも外している。
『きたぐに』の四人だけであれば余裕をもって座れる四角い座卓も、この人数では実況者同士の距離も近い。
CDラジカセのプラグをコンセントに刺した『近藤』が、パソコンの音声ソフトの録音ボタンを押して全員に向き直る。テーブルの中心には有線でパソコンに繋いだマイクが置かれていた。
「えー、『近藤』でーす。合戦が終わりましてね。惜敗した『新撰組』なんですけども。あー、いまは五稜郭まで逃げてきたという
厚手の緑のトレーナーの、肩に掛けていた大きなカバンから無線のヘッドホンをいくつも取り出している。
真っ先に応じたのはダウンを脱いで赤いロンT姿になった『アス』だった。
「せーのっ!」
「「「知りませーん」」」
「あ、私は知ってます」
実況者全員が笑っている中、すぐさま『アス』がわざとらしい表情を、飄々としている『ムンクさん』に向けた。『ムンクさん』はもちろん、当然のように真っ黒な、海外のバンドのTシャツを着ている。
「もー、なんだよっ。『ムンクさん』!空気読んでくださいよーっ!」
「いや。やっぱりゲーム実況者として、嘘は吐けないからね」
「マジメかぁっ!」
そんな二人のやりとりに微笑みながら『近藤』は、気を引きしめるように真剣な顔になって、
「ご静粛にっ!」
と部屋に響く声を放つ。全員が静かになったところで、
「そういう某も、詳しくは知らないんだよねー」
と破顔し、あっけらかんとした表情をした。全員が肩すかしを喰らった形になる。
「はあ?」
「え?じゃあどうすんの?」
「ふっ。ふふふ……。みなさん、肩をガクっと落としても、この動画は声だけですからね?」
長袖の黒いワンピース姿の『虎鉄』が思わず吹き出したことで、非難轟々の言葉が収まった。
「おい、虎徹ぅー。先のこと知ってるからって笑うなよなー。では、ご登場いただきましょう。ウチの大学の『ゲーム愛好会』会長の『灰色狼』さんです。はい、みんなで拍手してー」
縁側の廊下の襖側にいた『虎鉄』が立ち上がってそれを開くと、そこには髪の毛を少し濡らした、光沢のある青いYシャツ姿の若い男が立っていた。
「あ、どうも。今日はよろしくお願いします」
気が付いて、すぐさま『アス』が「あっ」と彼を勢いよく指さす。隣の『Aちゃん』と『kunちゃん』が思わず上半身を避けるくらいの身体の動き。二人ともお揃いの『きたぐに』と平仮名で書かれた白のTシャツ姿だ。
「あぁーっ!雪合戦の三回戦で『マサ』が間違ってぶつけちゃった人だっ!公園歩いてた人っ!」
「ばっ、バカ!黙ってりゃ分かんなかったのにっ。あ、あの『灰色狼』さん、さっきはすんませんでしたっ!」
『アス』の指摘に、緑と白の長袖チェックのシャツを羽織った『マサ』が立ち上がりながら勢いよく頭を下げた。それを見て実況者たちから笑い声が起こる。
濡れた頭を掻きながら、『灰色狼』は座卓に向かう。『近藤』の隣に腰かけると、全員の視線に目を伏せながらも、彼は口を開いた。
「ま、まあ、大丈夫でしたからお気になさらずに。それと、『灰色狼』は呼びにくいでしょうから、今日は人狼ということもありますし、私のことはゲームマスター、もしくはGMとお呼びください」
「は、はい……。よかったー」
座りなおす『マサ』に「よかったねー」とつまらなそうな棒読みで『アス』が声を掛ける。
『近藤』が、ごほん、と咳をして実況者たちの視線を集めた。
「では先生、ご説明をお願いいたします」
「こ、『近藤』さん。私は先生になったつもりはないんですが……」
「ふぁはっ。もーっ。『近藤』さん、GMって呼べって言われたばっかなのに……」
「いいじゃんかよー。『虎徹』はもうツッコミをいちいちいちいちしないでほしいんだよなぁー。いちいちさぁー」
「『近藤』さんこそ、そんなにいちいちって何回も言わなくていいでしょうが。ぷっ。絶対わざとですよね、それ?」
「はぁー!?……そうやって人の話し方を批判するようなゲラの刀に育てた覚えないんですけどー」
「『近藤』さん。ツッコミですよ、ツッコミ。切れ味するどいね。……刀だけに」
「出た出た。ツッコミって言えばなんでも許される風潮っ。きらいだわーっ。全然うまくないしさぁー。腕おちたんじゃないの?しっかりしてほしいわー」
「もういいです。いつまで駄々こねてるんですか『近藤』さん。ね、『灰色狼』さん。……説明を」
「あっ!『虎徹』もじーえむって言ってないーっ!」
「ふふふっ。こ……子供かっ」
何百万再生もされているゲーム実況で繰り広げられている二人のやり取りが、目の前で行われていることに感動している実況者たちは少なくはなかった。そういう二人もお互いに、ずいぶん久しぶりにこんな言葉の掛け合いをしたな、なんて考えながら話している。
「は、はい。では、ちょっと長くなりますが、人狼ゲームの説明を始めたいと思います。あれ?部屋の空気、なんか変わりました?」
なにも知らない『灰色狼』だったが、そんな彼でさえ、なんだか部屋の温度が少し上がったような錯覚を覚えるほどだった。
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