夢を叶える機械

 今この世界は大幅に技術が進み、発展していた。そのためか、現在の教育理念も昔とは大きく変わっていくことになったのだ。


 ……記憶力も指導力も、あろうことか社会経験もない大勢の大人たちに教育を任せるよりずっと、たった一つの優秀な機械が指導した方が効率的である……


 そう、誰かが言い、そしてそれが実行され長い年月が経った。この国は、そういう時代である。


 「博士」

助手の一声で、博士は書いていた手記を終わらせ、助手の方へ向いた。

「文部科学省から連絡が来ていますよ。きっと前言っていた、子供たちの夢を叶える機械の事でしょう」

「ああ、成る程。それで、返事は?」

博士はしばらく前に夢を叶える機械を発案していた。正式には教育機械に夢を後押しするプログラムを施す、と言う案なので、それ専用の機械と言う訳ではない。助手は渡された連絡事項を読み上げた。


 「許可する。条件として、必ず不適切な知識を植え付け無い事、あくまで純粋に子供たちの夢を後押しをする事」

それを聞き、博士はため息をついた。不適切、純粋、便利で捉え方が幾つもある。そのような言葉は、博士は嫌いだった。

「……期限は問わず、完成したら提出するように、だそうです」

博士はすぐさま立ち上がり、自分の研究室に向かって行く……と言う様子はなく、博士はパソコンで何やら調べものをし始めた。

「今の教育現場に行っても意味はない。それがまだ続いてた時代まで調べる必要がある」


『――将来の夢は、サッカー選手になることです!えぇーと……頑張ります!』

その後に無数の拍手が聞こえる。再生された動画は、様々な子供たちが、将来の夢を無邪気に語ると言う物であった。助手はしばらく何も考えずにそれを見ていたが、それがとても古い映像だと、後ろに映る大人の人間によって理解した。

「一体いつの動画ですか?教育師なんて職業、始めて見ましたよ」

「当時は教育師と言う名前でもない。『保育士』や、略して『教師』と呼ばれていた場合が殆どだそうだ」

博士のすぐ横には、古い文献と、教育の歴史を綴った本が並べられていた。

『――あー、そうかー。翔大君はサッカー選手になりたいんだね?きっとなれるはず、頑張って!』

俗に言う保育士が、生徒に向かいそういった励ましを言う。博士は途中で動画を止め、もうそのプログラムを作り始めたのである。


 そして一ヶ月も経たない内に、博士はそのプログラムを完成させ、提出した。そして一夜にして全国の教育機器にそのプログラムがインプットされた。これで教育専用の機械は、教育だけでなく、子供の将来まで後押しできる機械となったのだ。


 「早かったですね。この世には色んな職業があるって言うのに……」

博士は不満気そうにこう言った。

「いや、簡単な作業だったよ。しっかり説明しない、あの連絡事項がいけないんだ」


 ――とある保育所で、このような会話が聞こえてくる。

「田辺君の、『夢』は、何かな?」

「はい!将来は、一般的な企業に入って、優秀な社会員になりたいです!頑張ります」

「そうか!応援しているよ!――」


そんな会話が、毎日、永遠と続けられる。そう、今は、こんな時代なのだ。

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