崇拝者

 広い教会の中心にある、白い女神像の前で男は嘆き、自らの後悔を吐いた。その隣には神父が、規則正しく並べられている長椅子には、何ら変鉄もない格好をしている博士と助手が座っていた。

「ああ神様…私は何と言う事を…。愛する妻を持っておきながら、私は他の女に手を出してしまいました。到底許される行為ではありません…一体どうすれば…」

教会にはられているステンドグラスから優しげな光が舞い込み、それが暖かく男を照らしたような気がした。男が全てを言い終わったその瞬間、博士はこっそりと手元にあるボタンを押した。すると女神像から優しげな女性の声が男の耳に入った。

「気に病む必要はありません…これからは真面目な生を送るのです。さすれば神はお許しになるでしょう…」

男は晴れた顔をし、神父に一礼してから教会を去った。神父は男が去った事を確認すると、博士に向かってこう言った。

「どうもまた有難うございます。これは、少ないですが、ほんの気持ちとして…」

封筒に入った札を見て、博士はたった一言、

「では、また明日」

とだけ言い、帰った。


「博士。この商売長く続きますかね」

助手は歩きながら博士にそうきいた。

「いや、まさか」

博士は鼻で笑うように言い捨て、封筒を取り出し眺めた。

「こんな物、捨ててもらって構わないのだよ。なんだったらね」

助手は、「また冗談を」と言おうとしたが、やりかねない事を悟り、口に出さなかった。

「じゃあ、何であんな事を?慈悲な訳では無いでしょうし…」

「その内分かるさ」

そんな会話をしながら、彼らは研究所に戻った。


 次の日は、腰の曲がった老婆が訪ねた。教会の戸を開けるとすぐ目に入るその像は、まるで悩みを見透かされるような気持ちになる程圧巻で、たとえ離れた場所にあったとしても神々しい光が逆光となり、人々を引き付けるのだ。すでに博士と助手は椅子に座っており、神父は像の裏手に回り電源を入れた。老婆は像の前でひざまづき、長き一生の悔いを語り部のように話した。

 そして昨日のように博士はボタンを押し、また像は当たり障り無いことを言い、そして客は神父に礼を言って何かしらの物を渡すのだ。神父はその半分を博士に渡す。博士はまた明日もこの教会に来る。そう言う流れだった。


 しかし今日は違った。指定の時刻が過ぎたため、神父が像の電源を切って教会の外側を掃除をしていると、助手が神父に話しかけた。その隙に他人の振りをしながら博士は教会に潜り込み、像の裏手に回って電源を入れた。それに気付いた神父は助手を押し退け、戸を開ける。戸を開けた先には夕焼けの赤色をした女神像が神父を見据えていた。神父はふらついた足取りで像に近づき、こう懺悔した。

「ああ!神よ。私はあの怪しい博士の約束を破りました!取り分けの半分ではなく、実は3分の1にしていたのです」

博士の顔が歪んだ。

「他人の女と知りながら関係を持ち、物を盗んで他人のせいにさせたり、神の加護と言って他人の体に触り、指輪やネックレスを奪いました。どうかお許し下さい」

神父の口からは予想だにしない悪行の数々が出てきた。神父の口は震えていた。博士は録音をし、一先ず警察に神父を送り届けた。警察から金一封をもらい受け、博士は大喜びで研究所に帰った。


 帰り道の途中、助手がこんな事を言い始めた。

「この世に神は居ないのでしょうか?」

博士はいつぞやかのように鼻で笑い、その問いにこう答えた。

「いや、居るさ。愚かな我々を弄び、楽しく見物している、まるで私のような神がね」




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