歩行専用ロボ

 ある平凡な街の一日。人々が行き交い、その雑音や喧騒が辺りを包む中、近くの山道から異質な物が現れた。それはまるで歩兵のように歩くロボットだった。キラキラした体だったが、手足や頭はブリキのようで、顔は取って付けたような丸い目だけなど、少しバランスの悪い不恰好なロボットだった。しかしその姿に反して歩幅や歩きのキレは美しく、正確だった。道行く民衆は目を向け、足を止め、ロボットの目的を観察し続けた。一直線に進み、壁が目の前になると曲がり、また進む。そしてしばらく歩くと、ピタッと歩みが止まった。人々は次に何が来るか、と期待したが、ロボットは急にきびすを返してまた同じ道を通り、山の中へ帰っていった。特に何もせず、歩き続けるだけのそれに、彼らは呆気にとられるのだった。


 次の日も、そのまた次の日もロボットは歩きに来た。好奇心で眺めていた人々も、次第に飽き始め、疎く感じるようになった。邪魔に思い、どかそうとしたり、倒して動きを止めようとするものさえ現れた。しかし何をしても傷一つつけれず、少したりとも動かせなかった。こんな悪質な事をする者は誰か、それは最初から明瞭だった。山奥に住む怪しい博士、それこそがこのロボットを造り出したに違いないと。人々は博士に抗議することも考えた。しかし何の危害も加えておらず、何もしてこない事から抗議を実際にしようとするものは出てこなかった。


 そんなある日。このロボットはとても高価な素材で出来ているという噂が街中に広まった。その日から、人々の見る目が変わった。何とかしてどかそうと思っていた物が、今度は何とかして自分の物にしたいという欲望へと変わり、さりげなく手足をもごうとする人々や、一部でも取れる場所がないか探す人々が徐々に増えた。余りにも大勢いるため、引っ張りあいの大喧嘩が起き、警察までもが来る時もあった。そんな中でもロボットはただ歩くだけだった。


 博士は研究室の中でロボットの帰りを待ち遠しくしていた。

「博士、最近やけに楽しそうですね。何かあったんですか?」

助手は博士の様子を見て、不思議そうにそう言った。博士はそわそわした足を止め、こう言った。

「いや、今日はどんな装飾品が付いてくるか楽しみでね。やはりロボットの足に強力な磁石を仕込んでおくのは正解だった」

ロボットの足は、喧嘩で落ちた装飾品で彩られていた。


 

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