不老不死条約

 博士は、一時の偶然で不老不死の薬を発明した。もう作ることは出来ないだろう、世界初で最後の不老不死の薬は、多くの人々を魅了させた。主に若者を中心としてその薬を手に入れたいと願う者が後を絶たなかった。それとは逆に、危険だと訴えその薬を捨てるよう指示する団体も現れた。博士は自分の発明品を使わずに捨てると言う行為を酷く嫌がった。効果があるか確かめたかったのだ。そこで博士は、全世界の人々から一人、この薬を手にする権利を授ける事にした。『一生博士の実験体になること』という条件を付け足した上で。


 反発の声が強まった。不老不死を願っても、実験台になることは望んでいないのだ。それでも博士は計画を実行した。全人類に与えられた全ての番号、それが書かれた箱の中から一枚引き、その番号が当てはまる人に不老不死の権利を渡す。というくじ引きのような形式だった。そしてその緊張の時、世界中の誰もが息を飲み、言葉を発っさなかった。博士が勢いよく一枚の札を引く。そこには無機質に並べられた七桁の数字が、書かれていた。博士はその番号に当てはまる人物を探し、助手に遣わせた。


 助手が連れてきたのは一人の青年だった。一切抵抗をしておらず、ほぼ放心状態だった彼に、博士は無情に薬を飲ませた。青年はむせ、咳き込み、博士を睨み付けた。博士は冷徹な目をしていた。


 そこから青年は地獄のような日々を送った。毎日と言っていい程何かの実験台にさせられた。その中には苦痛を伴うものも、それを和らげるものもあった。どんな扱いであろうと、青年は思い知らされるのだった。


 自身が道具であると言う事に。


 そんなある日、博士はいつも通り青年に怪しい薬を飲ませた。青年は次第に意識が朦朧とし、ついには気を失ってしまった。目を覚ますと珍しく博士が笑っていた。優しく、祝福するように笑う博士を見て、青年は何があったのか、自然と博士に問いかけた。

「俺に何の薬を飲ませたんだ?」

博士は笑い顔のまま、こう答えた。

「今飲ませたのは、不老不死の効果を無くす薬だ。これで君は自由だよ」

青年は喜びに震え、声にもならない感嘆の息を漏らし、博士にこう懇願した。

「お願いだ!俺を殺してくれ」

「勿論」

けたたましい銃声と共に、彼は倒れ、力なく笑った。

「は、はは…やった…」



 「ははは…はは…」

薄暗い実験室の中で、青年は笑った。

「どうやら実験は成功のようだ。願った通りの夢を見せる薬は…」

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