安全保安庁
男は買い出しに行こうと外を歩いていた。店に行くには横断歩道を渡る必要があり、男は青信号になった事を確認して歩き出した。しかしその時。ものすごい轟音と激痛が男を襲った。男は気を失い、次に目が覚めたのは病室だった。男は誰かが説明する必要もなく、全てを理解し、そして頭を抱えた。これは一種の呪いなのではないか。男はそう思った。実際男はこのような目に何度も遭っており、もはや『不幸』や『偶然』では片付けられない程だと男は勘づいた。男は病室で一人、外に出ないことを誓った。
数ヵ月経ち、男は退院した。早速家に帰ろうとしていると、とある青年が話しかけてきた。
「やあ、すいません」
気さくそうにそう話しかけて来た青年はスーツを身に纏っており、どこか誠実そうな印象を与えた。
「何かありましたか?」
男がそうきくと、青年はこんな事を言い始めた。
「あなた、不幸な人生を送っているでしょう。特に事故による怪我」
そのきっちりとした見た目からは想像も出来ない怪しい話の広げ方に、男は少し怪しく思いながらも、相づちをうった。
「そこで、安全保安庁が、貴方に渡したい物があるそうです」
「安全保安庁…?」
男はふとそう呟いていた。男の記憶にはそんな単語は存在しなかった。
「安全保安庁とは、事故などによる被害が特に多い方々にサービスを送る団体の事です。『皆が安全かつ幸せに生きれる』と言う事をモットーにしております」
青年はそう言い名刺を渡した。男はその名刺をしばらく見ていたが、男は早く家に帰らなければいけない事を思い出し、話を切り上げようとした。しかし青年はしつこく、無理矢理にでも男に発明品を渡した。
「これはわが社が開発した、危険を察知する機械です。腕に取り付けて下さい」
男は青年に言われるがままに腕に小型の機械を取り付けた。機械のモニターにはこう映った。
[心身状態:普通 危険物(人):なし]
「このように、貴方の身の回りにある危険を知らせます。これで不幸な目には会わないでしょう。これはあくまでサービスなので、代金は必要としません」
男はこの機械を愛用した。車や前を見ていない通行人にまで反応し、男はこれのおかげで怪我や傷を負うことは少なくなった。
しかしある日、男は事故に遭ってしまった。原因は男が機械を確認しなかったからだった。男がいた時間帯は人通りが少なく、危険はないと思っていたのだ。男は激しい憤りを覚え、腕についている忌々しい機械を外そうとした。しかし、そのモニターを見た瞬間。男の手は止まった。モニターにはこう映った。
[貴方は幸せだ]
単調と威圧的に映された文章を見た男は、あろうことかその言葉の通りに感じた。今、自分は幸せだと、そう男は噛み締めた。男は更なる幸福の為、道行く車達に、正面からぶつかった。足の骨が折れようと、手で這いずり動きまわった。そして行く果ての最後に男が感じたのは、鳴り響く踏切の音と、生暖かい風だった。
男の死体には数多くの人々が群がった。気絶する人もいるほど、男の姿は惨たらしい物だった。そんな人の塊を傍観するかのように、少し離れた場所で青年は電話をしていた。
「博士、不幸な目に遭った際幸せだと感じる波長を出させたのですが、少しその影響が大きすぎたようです。自ら死に急いじゃいました。それと、危険な物や人が近くに居た時の通知音も必要だと思われます。…はい、え?来月には改良品が出来る?…分かりました。今のうちにまた次の不幸な実験体を見つけておきますよ…」
青年は悠々とその場を去った。
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