4-1
高校二年生の時に祖父が亡くなった。初めて経験した最も近しい者の死。
目が閉じられた祖父の顔を見た時にとめどなく涙が流れてきたのを今でも覚えている。二十三歳の時には祖母も亡くなった。とうとう二人の住まい、父親の実家には主が居なくなってしまった。
残るのはかつてこの家に住んでいた者だけに映る生活していた風景の幻影だけが静かに、ゆっくりと漂う。
その家は取り壊された、そこに新しい家が二棟建てられて完成前から早くも新しい入居者が一組決まっていた。小さい子供一人持つ三人家族らしい。一つの築き上げた歴史が幕を閉じて、またここで新しい歴史が積み上げられる。まさに一つの時代が終わった、そう感じざるを得なかった。
次は、両親の出番、そして自分へと……今のところ結婚の予定はない志保は、このままだとやがてこのマンションの一室からも誰も居なくなる日が来るのかと思うと寂しさよりも、恐怖が勝った。
そんなのまだ遠い未来だと思い、切り替えたがその足音は思ったよりも早く迫りつつあった。志保の父親が心筋梗塞で倒れて帰らぬ人となった。
定年退職前に行われた直近の健康診断では煙草の吸いすぎだと注意されて、肺の再検査もした。一時は煙草から離れるもののまた去年、定年退職後に吸い始めていた。これはあまり長生きしなさそうだなとその姿を見てうっすら思ったが、こんなにも早く逝くとは思ってもみなかった。特別、父親が好きだという感情はなかったが、ここまで、生まれた時から共に暮らしてきた人。いなくなってしまった途端にその歴史が映画の一コマのように蘇ってきた。この人はもういないんだ、父親の顔を思い浮かべる度に涙が零れそうになり下を向く。後悔のようなものも滲み出た。もっと何かしてあげられることはなかったのかと。
今まで空気のように存在していた、そこに大きな穴がポッカリと空いた。支えを失くしたかのようにそれを無意識に求めているのがわかる。でも、もうあの人はいない。
今も一人暮らしを本気で考えている。どうせなら首都圏に引っ越してライブに行きやすい環境へ移るのもありだと思っていた、そうすればリョウの近くに行ける、互いに住んでいる場所が近いとなれば……その計画は当分お預けになりそうだ。むしろ母親の傍にいられる環境で良かった。まだ現実を受け入れきれていない母はやはり後悔を口にしていた。もっと本気で父の健康を気遣えばよかったと、こんな事は起きないであろうと呑気にしていた自分を恨んでいた。一家の大黒柱を失っても幸い生活に困ることはなかったが、その空いた穴を埋める術はまだ見つかりそうにもなかった。今はここまで繰り返してきた日常を取り戻すので精一杯である、何かが足りない、そう思いながら。
部屋の窓から雲一つない夜空を見ると月が見えた。綺麗な満月だ。窓越しから見ているからかその放つ光は十字架のように線を引く。思えば久しぶりに空を見上げた気がした。思わずベランダに出てこの空をじっと見つめた。星も点々とある、よく見れば点滅しているようにも見えた。時々、車やバイクの音が遠くから聞こえるが町の雑音が息を潜め始めているこの静かな時間が心地良かった。五分ほど浸っていた、そろそろ中に入ろうと思うがその前にこの月、空をスマホのカメラでおさめた。その写真を文字は何も打たずに自身のツイッターに上げたのであった。
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