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 やっぱりおかしい。リョウの胸騒ぎは日に日に慌ただしくなる。志保のツイッターが一ヶ月以上、更新を止めたままになっていた。

 以前もあった、その時は職場の不満を一言、漏らしたのを最後に止まった。その時も心配したものだが前の職場からは離れて今はリフレッシュしているという言葉と共に帰ってきた。

 順風満帆とはいっていない人生のようだがとりあえずまたここに戻ってきたことには安堵した。そこからまた盛んにツイートをして、新しい職も見つかったらしい、復調したのだと思われた。

 が、今回はまたあの時とは訳が違った。急遽、六月に決まった志保であれば足を運ぶであろうライブの日。いつもなら随時、ライブ会場に向けて出発した、新幹線の中から見える景色、そういったツイートもここまで見られない、これはどうしたのか。


 会場に行けば居ると信じた。開場一時間前に着く、志保を探す間もなく絢香がグッズ売り場から抜け出していく姿を見つけたが、絢香は早速、別の誰かと合流して横断歩道を渡ってどこかに行ってしまう。志保ではないのは間違いなかった。

 ツイッター画面を開く、ここにも志保の姿はなかった。二週間くらい前にフォローしてくれた人から数時間前の今日の会場が地味に遠いというツイートに対して共感するリプが送られてきたのを思い出す。志保と会う前も、よくこうしてリプを送ってきたのを思い出す。きっとこの人も会いませんか? と言えば応じてくれることだろう。こうしてツイッターから繋がった人と会うことにも慣れてきたリョウは今ならそこまでためらいもなかったが、今はその気にはなれなかった。


 外へ出ると小振りではあるが雨が降っていた。

 予報通り、リョウは出入り口前でリュックの中から折り畳み傘を出した。そこから数歩離れて後ろを振り返りライブハウスの看板をじっと見る。このまま帰るのはのことだったが足首に重い鉛が鎖で繋がれているようにそのまま動かなかった。そこに絢香が目の前を通りかかった。

「あっ絢香さん」

「リョウくん、いたの」

「いましたよ」

 絢香はどうやら傘を持っていないようであった。ここはどうするべきか、そんなことは決まっていた。

「入りますか? 駅までなら一緒に行けますけど」

「えっ、いいの」

 濡れたままにはしておけないと答えを聞く前にリョウは絢香を傘の中に入れた。

「悪いね、私の荷物、駅のコインロッカーにあるんだ」

 ちょうど向かうべき方向は同じだと分かり二人は歩き始める。リョウの胸の中は志保には会っていないのかという疑問が当然ある。それを聞かないわけにはいかなかった。

「志保さんと会いました?」

「志保ちゃん? いや、会っていない」

「そうですか、どうしたのでしょうね。最近ツイートしていないですし」

「そうだね、ライブの日になれば復活すると思っていたんだけど」

「今日は来ていなかったんですかね」

「うん、見かけなかったし」

 駅構内へと入る。絢香がロッカーから荷物を取り出しリョウに話しかける。

「実はLINEで一週間くらい前に元気? って送ったんだけど未だに返事が来ないんだよね」

「あっ、LINE交換しているのですね。そんな仲の良い絢香さんにも返事を返さないのですか」

「リョウくんも試しに送ってみたら? ツイッターのDMでもいいから」

「僕ですか? どうなんでしょう、絢香さんですら返さないんだったら」

「そんなの分からないじゃん」

「分かりました、あとで送ってみます」

「うん、そうしてあげて。これからどうする? まだ時間もあるけど……」

「そう、ですね。せっかくライブ自体は良かったので、それについて盛り上がりたいところですけど、今日は帰りましょうか」

「えっ帰るの? ……私、実は今日の夕食はこの辺で食べようと思っているんだけど」

「分かりました。じゃあここでお別れですね。……誰かがいないとここまでダメージが大きいなんて思ってもみなかったです」

「そう、じゃあまたね」

 絢香の顔を見るとどこか不満そうに見えた。それをリョウは敢えて気にしなかった。それよりも今は志保のことが気になって仕方がなかったからだ。


『お久しぶりです。今日のライブ来てましたか?いつもだったらいる志保さんとは今日、会えなかったので寂しかったです。僕はあと東京公演に行きますので、もしも来る場合は事前に教えてください、そこでまたお会いしましょう』

 またあの時のような事を繰り返すのか? 沈痛な面持ちの自分が映っている。電車の中のボックス席、窓際の席に座るリョウ、窓には雨粒が滴る。

 これがあるから怖かった。近況が、昨日何を食べたのかも知っている、同じ趣味を持ち、僅かな時間で今までの誰よりも親しくなれたはず。それなのにこうして連絡をしても返事が返ってこない理由が分からなかった、これだという見当もつかない。

 リョウは十九歳の時に小学生時代の友人が交通事故で亡くなった事を知る。その友人とは中学に進学して一度も同じクラスにならなかったからか、いつの間にか疎遠となり連絡先も知らない。七年間も交流がないと特別、悲しという感情もわいてこなく、あぁ、あいつ亡くなったんだとしか思わなかった。それでも母からその訃報を知ることができた。その母も近所の人から聞きいた話。葬式には行くか? とも聞いてきたがリョウは行かなかった、薄情だと思ったがもうそこまで思入れもないというのが正直なところ。

 もしも、万が一、志保に何かあった場合、それを誰が知らせてくれるのか? 濃い関係のようで、あまりにも脆い、ちょっとしたことで切れる薄い関係であった。あの時のように。

 志保とは本名なのか、そうだとしても姓は? どこに住んでいるのか、東海地方だとは分かっている。新幹線で二時間以上かかるかもしれない距離、そんな離れているのになぜ巡り会えたのか——それでもリョウは彼女と毎日のように心を通わせていたような気がしていた。

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