クレジットカード
横淀
クレジットカード
木の小屋にいた。
大男が
「カードはどちらの手で使いますか?」
と聞くので、僕は
「じゃあ左手で」
と答えた。そうしたら、大男は左手をぐいと掴むとレジの中に引き入れ捩じ切った。
気付くと家に戻っていた。僕はまた木の小屋へ出向く。
再び大男が
「カードはどちらの手で使いますか?」
と聞いた。僕は嫌な予感がしつつも
「右手で」
と答えた。案の定右の腕をぐいと掴まれた。何となしに想像がついていたので僕は必死に抵抗する。大男の手に噛みついた。精一杯顎に力を入れる。それでも大男はまったく怯むことはない。抵抗虚しく、僕の右手は捩じ切られてしまった。
また家に戻った。僕はこのカードがいけないんだと憤慨し、お問い合わせセンターに連絡をした。
女性が
「では対応させていただきます。今回の資料もお送りします」
と答えた。少し不安になりながらも、届いた資料に目を通す。資料はA4の紙が2枚ポストにそのまま入れられているだけであった。一枚は紙面いっぱいに「お」と書かれていた。もう一枚はとても貧相な海と船の絵にバーコードが印字されていた。
これでは何も解決していないではないか。僕はカードを使わなきゃいけないのに。
このまままたカードを使ったら大男に腕を捩じ切られてしまう。憤りながらも、僕は木の小屋へ向かった。
レジには女の子が立っていた。今度は腕を捻じ切られずに済むと安堵しながらカードを差し出す。女の子の顔を見ると目が黒で塗りつぶされていた。安いマーカーで適当に塗ったような目だった。なので僕は会計をせずに小屋を出た。
しかし、小屋の横にあったポストが僕を追ってきた。ポストには目玉がついていた。どんなに走っても、回り道をしても、ポストの目は僕を離さずずっとついてきた。僕は家に帰った。
「もうカード決済はやめよう」
財布を押し入れの中から取り出し、適当な枚数のお札と小銭があることを確認し、明日からは現金で会計することに決めて僕は寝た。
クレジットカード 横淀 @yokoyodo
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