北国の春

氷雉

北国の春

卒業式の日に桜が咲いている。


私にとってそんなのは、テレビとかアニメの話である。


「行ってきます」


「パパが雪かきしてくれてるけど、滑りやすいみたいだから気をつけなさいよ」


「うん、わかってる。行ってきます」




ハレの日だしローファーで…とも思ったが危なさそうなのでやめといた。

白いフカフカに見える雪の下には、だいたいツルツルの氷が隠れている。


いつもの道。いつもの交差点。

小学校から中学まで、9年間変わらなかった通学路。

そしていつもの、交通指導員のおじちゃん。

歳的にはもう、おじいちゃんだ。


「おはようございます」


「おはよう」


「私、今日卒業式で。ここ通るのも最後なんです」


「あーーそうだべかぁ。はえぇなあ。ついこないだまでこんなにちっちゃこかったのになあ」


「おかげさまで、ありがとうございました」


「元気でね、やっとくんだぞ。」


「はい。」


「春だべなぁ」


「?だいぶまだ寒いですけど。」


「青い、春だべ。」


ニッコリとしたおじちゃんの顔は、今でも忘れられない。

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北国の春 氷雉 @cherry_sis

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