第4話「情熱ファンレター事件②」
熱烈なファンの思いは強い。
少し過去の話をしよう。最高の試合を見せた卯花昴に向けて
黄色い声援を送った女性たちは名前もない非公式の小さな
ファンクラブであった。
彼女たちのファンレターは昴の元に届いた。
彼はファンを大切にしていたので彼女たちに試しに返事を書いた。
その手紙が彼女たちに送られて来てから事件が起きた。
女性たちはある日、試合観戦をするために出かけたがその先で
殺人事件が起きた。死亡したのは彼女たち。
◆
その事件で死んだ女性たちがこの手紙を送ったのではないかと
考えた。
「待った。じゃあ一人の人間に対して多数の霊が憑いてたってこと?」
「そうなるな。一人乗りの自転車に10人乗ってるようなもんだ」
師朗はそう答える。それは大丈夫なのだろうか。個々人で変わるが
そこまで重症には至っていないだろうとは八槻の見立て。
「俺が気になるのは憑かれた女といた男だな」
不自然だ。その男も何か関わっていたのではないかと考えるのが
自然。もっと深く考えるのであれば…
「その人は霊能者、とか?」
「否定は出来ないけど肯定も出来ないな」
この男の存在が分からない。
「師朗さん、もう少し何かありませんでした?部屋とか」
そう聞かれて彼は顎に手を当てる。しばらく目を閉じていたがやがて
目を開き何かを思い出す。
「そういえば…トロフィーが沢山あったな。見覚えがある。多分、
ボクシングだ」
「え!?じゃあボクサーの人?」
「違うだろう。あくまでも元、だ。今はそのスポーツ関連の役職だろうな」
キャリアがある警察官はやはり違う。彼の見立てではそれなりのお偉いさんだと
考えているらしい。その面に詳しいのはやはり選手たちか…。
となれば現在、連絡できる相手は彼だけ。美姫は携帯を手に取り、外に出て
連絡を取る。
『美姫か。ごめん、出るのが遅くなったな』
携帯越しにサンドバッグらしきものを叩く音が何度も聞こえる。
「ううん、こっちこそごめんね。でもさ、聞きたいことがあったんだ。
えっとーちょっと待って」
電話から少し耳を離した。聞いたのは男の特徴。色黒で髪が長い中年の
男。その特徴を聞いた昴は少し考えた後に推測である人物の事を
教えてくれた。
『ボクシングのジムにも色々ある。俺のジムとは違うが別のジムの
会長として
名前だけで検索するとすぐに顔写真も出て来た。師朗が頷く。
この男で間違いない。何らかの形で彼は関わっているだろう。
「あ、そうだ。ちょっとさ、頼まれてくれないかな?」
『ん?』
「手紙を書いた人が分かったんだ」
『そっちで分かったって事は書いた人は幽霊か』
「流石。正確にはお兄ちゃんのファンクラブ。小さなファンクラブだって。それで
手紙を書いて欲しいんだ。その手紙を今から言うところに帰りで良いから
置いてきて欲しい」
場所、そしてそれぞれの女性たちの名前を教えてから電話を切った。
その日の早朝に昴はいつも通り走り込みに出かけた。
道端で彼は声を掛けられた。その時は偶然にも彼にも姿を認識できるように
なっていた。半透明の体を持つ女性たちは嬉しそうに笑って彼に言った。
『最後に握手しても良いですか』
か細い声だが聞くことが出来た。それで彼女たちが満足するのなら
喜んでと彼は骨の張った手を差し出した。その手を半透明な四つの手が
握ってきて、そして消えた。
「応援してくれて、ありがとう」
「霊能課。噂には聞いていたがまさかあの卯花昴の妹がその課長とは…」
中年の男は舌打ち交じりに次の策を練るのであった。やはりあんな奴らを
使っただけでは崩せない。恨みを買っている、憎悪を背負っている人物を
次の標的に定める。
この男、鏑木彰久はその人物が彼女と繋がっていることを知らない。
警霊-ケイレイ- 花道優曇華 @snow1comer
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