第3話「情熱ファンレター事件①」

有名人、スポーツ選手等々…華々しい活躍をしていると

ファンからは多くの手紙を受け取ることがある。卯花家にも

そういった人物がいるのだ。


「まぁ、凄い!昴のファンレターが沢山あるわね!!」


母は目をキラキラ輝かせている。少し参ったような顔をしている

青年、卯花昴は苦笑いする。


「女の人のファンが沢山だね。ほら、こっちのは全部

女の人の名前だよ!」


沢山の手紙の多くが女性からの手紙だ。容姿も性格も完璧、それだけで

女性たちは黄色い声援を送りたくなる。今ではそれなりに穏やかな印象を

受ける昴だがリングに上がればまた違う。隙を窺い、獰猛に戦いに挑む。

手紙を弄る美姫の手が止まる。黒い手紙に白いペンで名前の頭文字が書かれていた。


「珍しい。黒い手紙か…名前も見たこと無いな」

「新しくファンになった子かしら?」


母親も首を傾げる。美姫は違和感を覚える。この手紙は何処か普通じゃない気が

する。開いてみればそれは何も書かれていない紙切れ。そのはずなのだ。

そうなのだが…。美姫の顔は真っ青になる。母も兄も彼女の事を知っているから

ゾッとする。




そのファンレターは翌日に美姫の手によって霊能課に届けられた。


「へぇ、卯花…って、卯花昴!?」


スーパーウェルター級のプロボクサーだ。テレビでも名前はよく聞く。

その妹であることを周りは認識していなかった。


「名前を聞いた時から何処かで聞いたことがある名前だとは思ってましたが…

なるほど…」


と、納得している仁は何度も頷く。性格が悪い者は


「全く似てねえな」

「ちょっとドストレート過ぎじゃない?」


如月八槻の言葉に僅かながら彼女はダメージを負う。似ているとは思っていないが

他人に改めて言われると少しショックだ。


「で、さ。この手紙を書いた霊を探そうと思うんだけど」

「探す?霊を?」


本気か?そう言いたげな八槻に美姫は頷いた。


「手紙本体は霊感が無くても見えてたんだよ?それって少し

変わってるなぁって思わない?実態を持ってない霊がどうやって

手紙を書いたの?」


基本、霊は実態を持たない。強い力を持っていれば物理的な

ダメージが入る程度には実体化して物を握ったりできるだろうが

常人の死霊では難しいだろう。

ではどのような方法で彼女は手紙を書いたのか。


「考えられるのは誰かの体に乗り移った、か…」


そうだ。だが八槻のその言葉では解決できないことがある。

霊能者はこの手紙を読めるのに、普通の人間は読めない。そんな字が

あるか?


「その点については分かってることがあるぜ」


バンダナを巻いた男はひょっこり姿を現した。遠坂師朗は

サイコメトリーの持ち主だ。手紙を暫く見つめる。

     ◇

見えるのは驚くことに二人組だった。片方は筆ペンを握り

手紙を書いていた。目に光は無い。何処か虚ろな女は

霊に憑かれた状態であると彼は推測した。

もう一人はその様子を見つめる中年の男。何やら笑みを浮かべているが

良い笑顔ではない。

     ◇

「なんか、怪しいと思わないかい?筆ペンで書いているはずなのに

霊能者にしか読めない。じゃあ、女が握っていたあのペンは何だ?」


指摘するべき箇所はそれだ。限られた人物にしか読めない文字を

書くことが出来るペン。そんなものは存在しないとまでは言わないが

霊能者にしか読めない字を書くことが出来るペンはあるのか?

いや、無いだろう。


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