第3話中編-2-

乾き物をかじりながらチビチビとカクテルを飲みながら、エリカさんの過去の彼氏の面白話や修羅場話などを聞いた


夕間も中には知っている話があるのか、懐かしい、あれ笑った、など会話に参加している


中には笑えない話もあったのに大爆笑している2人を見て、なんだかそれがきっと自分が経験のない子供だからなのかななんてちょっと考えてしまった


単にこの2人がおかしいのかもしれないけれど




時間つぶし程度にサラリーマンらしき人が2人小一時間来ただけで、平日で雨のせいもあってなのか、深夜1時に差し掛かっても客は僕らしか居ない



ふと何かを思い出したかのようにエリカさんはバッグを漁り始めた


「夕間君、これこれ」


「え、まだあったの?」


なんだろうかと夕間に見せるその紙を覗くと


Tequila shot


そう書いてある小さな紙が綴りのように何枚かあった


「あぁ、これな、1年ちょっと前くらいかな?ここでビンゴ大会やった時景品でつくったやつなんだ。1枚でショット1杯と交換できるやつ。

懐かしいな、残り6枚か、、確か3シートくらいだったよね。って事は、24杯もいったのかあの日一日で。次の日ほんとに死んだもんな俺も」

苦笑いしながらチケットを2枚切り取る夕間



1口サイズにカットしたレモンと小さな一息で飲める程のグラスを自分とえりかさんの前に置いた


茶色っぽいそのお酒を、2人は乾杯すると一口で飲み干し、レモンを齧った



なんとも言えない表情をしていた



「あーっ、効くねやっぱ」


「俺も久しぶりに飲んだ」


僕は何かわからないのでスマホでテキーラと検索した



アルコール度数 よ、40?


それって凄くキツいんじゃ


「それ、やばいんじゃないの?2人とも大丈夫?」


一気に酔いでもしたのか慌てる僕がおかしいのか、

笑いながら2人は手をひらひらさせた


「1杯2杯くらいなんことないよ、一晩で10杯とか全然飲む時あるんだし。」


口直しのミネラルウォーターを飲みながら夕間はエリカさんを指差しながら笑った



「ね、此太君も一口だけ飲んでみる?」

名案とばかりにエリカさんはまた綴りを夕間へ向けた


「さすがにテキーラはちょっと此方にはなぁ、、」


「いいじゃんちょっとくらいなら、お酒飲めるんだから大丈夫でしょ一口くらい」


「ってよ、ほんのちょっとだけ飲んでみるかこなた?あーこれほんとさすがに親父たちにバレたら2人とも怒られちまうな」


夕間は頬を赤くしながら楽しそうに小さなグラスを3つ出しながら答えるより先に注いだ


絶対ちょっと酔ってる



どうしよう


ちょっと怖いけど気になる、好奇心に負けて僕は首を縦に振った


「ほんとにすこーしにしとけよ?一口で全部飲むなよ?」



「すぐ飲み込むんだよ?味はキツイからすぐ飲んで、はいこれレモンね」


エリカさんに差し出されるレモンを左手の親指と人差し指でつまんで


3人でグラスを合わせ



ほんの一口だけ口に含もうとしたら


口に着いた瞬間強烈な味がして、驚いてつい一息に全部飲み込んでしまった


喉が熱い


化学薬品をダイレクトに口にしたような感覚




「あはははははっ、此太君、レモンレモン!」


エリカさんは大爆笑している


慌ててレモンを齧る


口の中の状態からか、思ったより酸っぱく感じない



とにかく口と喉が熱い



「おいおい、言ったのに一気に飲むなよ」


涙目になりながらレモンをかじる僕に夕間はミネラルウォーターを渡してくる


一気にそれを飲み干したけれど、熱さはそのままだった


顔まで熱くなってきた


「こんなお酒あるんだね、びっくりした」


「まあ大体ノリとか罰ゲームで飲むような酒だからなこれは。急アルとかなっても危ないし、慣れてもあんまり飲むなよ?」


確かにこんなの何杯も飲んだら倒れてしまいそうだと思ったけど、何十杯と飲んだとか言ってる2人が言っても説得力がないなとなんだか笑えた



テキーラの威力は思った以上に強く


時間が経ってもぽかぽかしてふわふわした


つい数時間人生最大の絶望を体感してた事が何だか嘘みたいだった



「夕間、分かったよなんだか」


「なにがだよ、いきなり。お前酔ったのか」


「うん、まあ酔ってると思うけど。なんかさ、今思ったんだ。カクテルしか飲んだこと無かったけど、テキーラを知った。花音しか知らなかったけど、きっとテキーラみたいな子もいるかもしれない。」


「おう、酔ってることはよく分かった」



「それじゃあ此太君は強烈なキツい子と出会いたいって事じゃん、まあ、少しわかったみたいだけど」

クスクスとエリカさんは笑いながらこっちだよと、飲んでたグラスを手渡してきた




さっきのテキーラと同じようなサイズのグラスで綺麗な緑色の液体が揺らいでいた


「なんですこれ?」


「コカレロっていうお酒だよ、甘くて美味しいから。一口で呑んで大丈夫だよ。はい、そいで訂正ねっ」


言われるがままに一口で飲み干す


甘くて飲みやすい


「あ、これです、これです!」


「でしょっコカレロ此太君や」


満足そうにエリカさんは笑う


頬だけじゃなく顔が暑くなってきたし、より一層ふわふわしてきたけどお酒は美味しいしなんだか妙に楽しい


店に入った時には考えられなかった位だ



僕は何をそんなに絶望してたんだろ


あまり回らない頭にそんな事が過(よ)ぎった

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