第2話 中編-1-
それで、10年の経緯を聞こうじゃないか此太君
どこか挑戦的にバドワイザーってビールを片手にエリカさんは言った
なんていうかもう、酒の肴感しか感じない
僕のつい本日起きた10年の失恋の話が、初対面のお姉さんの酒の肴になっていく
10年といったって漫画やドラマみたいに山あり谷ありなんてもんじゃなく
ただ、なんとなく居た幼なじみが好きでした、ずっと
それだけの話なわけで
10年分語ると言っても、まあ幼なじみである始まりから自然と好きになっていった事に気づいた事、普段の花音との事、そして花音が東京の大学を受ける事になり、その勢いで想いを告げてふられた事
そんなドラマみたいなもんもないし、とりわけ話すことはないのだから、そんな長くなることはなく話は終わる
それでも、エリカさんは所々でテンションの高いリアクションをした
「うーん、、此太君がどーこーってより
その彼女はまだ恋愛自体に対しての意識とかそうゆのまだ無いのかな?まあ少なくとも君に持ってる好意は異性の其れじゃなくて、家族としてや人間としての好意だよね。まあでも言うしかないか、急に東京の大学行って一人暮らしするなんて聞いたら」
今日フラれたとこまでを聞き終えたエリカさんはナッツをポリポリと齧りながらちょっと真面目な顔で言った
花音からそう言った異性の話を特別視した話を聞いた事もないしバレンタインやクリスマスを妙に気にするような様子も今まで見たことが無かった。そこの2つに関してしては言いきれる、とまでは言わないが高い確率で言える
バレンタインは家族と僕と女友達にしか渡してないし、クリスマスも大抵家族と過ごしてる
数回、イルミネーションを見に付き合って欲しいと言われ行ったが、ほんとに話題になってるからって感じしかしなかったし、確かにこれまで1度たりと男女感の「其れ」は微塵もなかった
「まぁ。。。そうですねぇ」
何処か他人事みたいな覇気の無さで言葉が出た
改めて浮かぶ花音が遠くに行くということが心に重くのしかかった
まあ落ち込むな此太君と、軽めの口調でエリカさんは新しいバドワイザーを口につけ僕にもそれを寄越した
苦い
「今は分かんないかもしれないけど、きっと変わるから」
「変わる?」
なにがだろうか
「まあ例えばだけど、此太君に彼女がこれから出来るとしよう。そうしたら今まで好きだった花音ちゃんの片思いの時間は10年かもしれないけど、その彼女と両思いの時間が新たに生まれるわけだ。
そんで段々その時間が増えてゆけば、君の中で新しい大事なものや時間が増える。例えば数字にしてみて100として、今は片思い、君の中では花音ちゃんが100。
でも次第に90、80となってくよ。
過去の片思いが、忘れるってことは無いけど今とは違うように思えるさ。そゆもんだよ。
あたしだって初めて付き合って人と別れた時凄く辛くて、今だって忘れたわけじゃないけど、つい先日同棲してたやつと付き合った時から、暮らし始めた時から、初めて付き合った人と違う経験、時間が出来るわけで、それが大事になって過去のことはちゃんと過去の事と少しずつ時間が経つごとに整理されてくんだよ」
んま、あたしもその同棲も終わったし別れたし、また新しい特別を見つけてコレを過去のことにして薄めていかないといけないんだけどね
そう言ったエリカさんは、大人だからだろうか、人生経験が僕より豊富だからだろうか
今もう全然整理がついてるように見えた
「僕には今は全然そんなこと想像つきませんよ」
特別悲劇に襲われたわけでもない
ただのありふれた失恋
だけどやっぱり僕の人生の大半好きだったってことは自分の中じゃそれなりに大きくて辛いもんなんだ
今時点じゃ、どうアドバイスを受けてもそんな簡単に整理はつかない
しばらくは悲しみと途方にくれるであろう
今日はお酒と煙草で現実逃避するけど、毎日ってわけにもいかない
失恋で喫煙や飲酒に走るなんて僕の歳じゃまだ早いと思うし
そんな気持ちを見透かしたか
「まあ今日は飲んで吸って考えなさいな少年よ」
ニカッと笑うエリカさん
エスパーか
いや、僅か数歳でも人生経験が豊富だから分かるのか
こうして夜はふけていく
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