#4
「……なんだ、あんたかよ」
僕を見るなり、松前将吾は不機嫌そうにそう呟いた。
とはいえ、僕が見る彼は常に不機嫌そうで、不愛想で、世界を呪うような目をしていた。言動は刺々しく、行動は一つ間違えば周囲を容赦なく傷つけてしまいかねない。
そう、僕が彼の穏やかな表情を見ることができたのは、インタビュー動画やウェブサイトの記事といった、過去の記録の中だけだ。あの精悍な少年剣士と目の前の彼は、どうしても重ならない。
それでも、彼は松前将吾だ。
それ以外の誰かでは、断じてない。
「……何しに来たんだよ。俺に何か、話があんのか?」
「ああ、そうだ。お前と一度、ちゃんと話したいと思って――」
「俺には、話なんかねえよ。頼むからさっさとどっかに行ってくれ」
鬱陶しいんだよ、と、吐き捨てるように言った彼は、再び僕に背を向けた。
まあ、そうだろう。
お前はそうするよな。
その反応は、予想ができていた。彼の心は完全に閉ざされていて、その中身を見ることは、僕には叶わない。
「まあ、そう言うなよ」それでも僕は、臆せずに続ける。「せっかくこうして知り合ったんだ。少しくらい、付き合ってくれたっていいだろ?」
言いながら、彼の隣に腰を下ろそうとした――が、彼は僕を避けるようにして立ち上がる。
そして、向けてくる視線からは、例えようもない嫌悪の色が読み取れた。
「何してんだよ、お前……。急に気持ち悪ぃことすんじゃねえよ」
松前は僕を見下ろし、牙を剥き出しにして憤っていた。心なしか、息も荒くなっているように思える。
それもそうだ。だって僕は、彼にとってこれ以上ないくらいに不条理な存在なのだろうから。
唐突に表れて、自己防衛の殻をこじ開けて入ってこようとする、理解不能で独善的な。
『毒』善的な、異物なのだろうから。
「何って、だから、お前と話したいことがあるんだって。最初からそう言ってるだろ?」
「うるせえ、俺は話したくねえって言ってんだ。いい加減にしろよ、お前」
「はっはっは、怖いな、おい。どうしてそんなに頑なに拒むんだよ――」
松前の肩が、静かに震えている。このままでは、いつ手を出してきてもおかしくはなさそうだ。あの太い腕で殴られるのは、さぞかし堪えるだろう。
ただ、これではまだ足りない。
僕はまだあともう少しだけ、嫌われなきゃいけない。
「――裏切られるのが、そんなに怖いのか?」
だから、最短距離で。
一番柔らかい部分を、貫くことにした。
「――――っ!」松前の両目が、驚愕に見開かれる。震える唇は、「なんでそれを」と紡ごうとしていたのか。どうあれ、音にはなっていなかった。
僕は、その隙に乗じて立ち上がり、彼と目線を合わせた。ネットで見た写真よりも幾分隈の目立つ貌。揺れる黒目が、僕の姿を俄かに映している。
明らかな動揺。転じて、それは僕の言葉が彼に届いていることの証左でもあった。しかし、彼はすぐにそれを隠すように眉間を寄せた。
「……誰から聞いたんだ。部長か? それとも東か? あいつらが、俺のことをベラベラ喋ったってことかよ」
「違うさ。まあ、多少聞き込みはしたけど、二人とも核心までは教えてくれなかった」
東と話したときは、僕が言葉選びを間違えてしまった。榊は快く話してくれたが、それでも、答えそのものは決して口にしなかった。
今思えば、あれは彼らなりに一線を引いていたのかもしれない。お互いに関係を保つため、ここから先には触れてはいけないという、境界があるのだろう。それは彼らの中の小さな世界を守るために必要なことで、だからこそ彼らは、あの崩れかけの四人の関係は成立しているのだろう。
僕は今から――その一線を、踏み越える。
「でも、だ。僕はあいつらと話してみて感じたよ。あいつらは、たぶんだけど、変わりたがってる」
「……はあ?」
素っ頓狂な声。片方だけ上がった眉は、疑問というよりも、僕の正気を疑う意味合いが強いように見えた。
ただ、考えてみれば、そうなのだ。そもそもそんな不可侵の間柄であるのなら、僕など無視していればいいだけなのだ。
表面だけ取り繕って、数日をやり過ごす。そうすれば僕と彼らの縁は断ち切れて、僕が彼らを追及することも、その意味もなくなる。
もちろん、それができない辺りが、彼らの子供っぽい部分なのかもしれないのだが。
それでも、榊はあれだけのことを話してくれた。
東も、僕に話すかどうかを悩んではいた。僕の失言が無ければ、何か聞き出せていたかもしれない。
彼らが、僕に情報提供をする意図。そんなもの、考えずとも汲み取れる。
「あいつらは、外からの刺激を、変化を望んでいた。凝り固まって、もう、にっちもさっちもいかない自分たちの関係を変えるために、僕を利用しようとしたんだ」
だから、榊は僕に託した。
ある意味では、都合よく使われているだけなのかもしれない。仮に僕が失敗したとしても、榊や東はほとんど傷つきはしないだろう。
それでも、利害は一致したのだ。
だから、僕はそれに乗ることにした。
それに乗るしか、無かった。
「……何、テキトーなこと言ってんだよ」
松前の口調は、どこか呆れたようですらあった。
「どれもこれも、お前の勝手な思い込みだっつーの。悪いけどな、俺たちはこのまんまでいいんだよ。傷つきたくないから、これ以上傷ついたら何かがどうにかなっちまいそうだから、俺たちはこうしてるんだ」
「……それは」
「それは、じゃねえんだよ。うるせえから、もう話しかけてくんな」
彼はそのまま、僕を置いて歩き出した。話は終わりだ、とでも言うように。
有無を言わさぬ足取り。けれど、ここで返すわけにはいかない。
だから、彼の歩みを止めるためには、もう、懐まで斬り込んでいくしかなかった。
「……左肩」
呟く。途端、確かに彼の動きが、遠ざかっていくはずの背中が、一瞬だけ動きを止めた。
「意外と普通に動くんだな。今まで過ごしてきて違和感も見て取れなかったし――まあ、日常生活には支障のない程度には、治ってるのか?」
「……おい、それ、どうして」
僕はゆっくりと振り返る。勿体つけるように。彼の意識ができるだけ強く、僕の方に向くように。
彼の怪我の原因は、誰も教えてくれなかった。
しかし、必要な手掛かりは全て、手元に揃っていた。少し考えれば、自然とその答えに行きつく。
「お前のその怪我は、練習中の事故とか、オーバーワークによるものじゃない」
考えるべきは、そこだった。どうして彼は、剣道部を辞め、文芸部の戸を叩いたのだろうか。
彼の怪我の程度までは知らないが、リハビリや復帰の余地がないほどに酷いものなのだろうか。今の彼を見る限り、少なくとも日常生活において不自由な部分は見受けられない。
それに、試合に出られないとは言っても、それ以外に剣道に関わる方法はいくらでもある。彼ほど熱心に打ち込み、全国で結果まで残した選手が、そんなにすっぱりと競技から離れるものだろうか?
単純に心が折れてしまった、という線もあるが、それよりも、僕はこっちの方が可能性が高いのではないかと思う。
「――同じチームの誰かにやられたんだ。違うか?」
今度こそ隠しようもないほどに強く、彼の顔に狼狽の色が浮かんだ。
いや、たとえ繕えたとしても、彼にその余裕があったかは怪しい。少なくともそのくらいには激しく動揺しているようだった。
そう、考えればわかることだ。彼の他人に対する不信感。何故か、止めてしまった剣道。そして、彼の怪我についても。
彼は剣道部を辞めたくて辞めたのではない。辞めざるを得なかった。
そこにどんな事情があるのかは知らない。それは僕が関わるよりずっと前に終わってしまった物語だ。彼が話そうとしてくれない限り、僕がそれを知ることはできない。
ただ、ようやく僕は――彼の傷の正体に、辿り着くことができたようだった。
「……ああ、そうだよ」
吐き捨てるように、松前は頷きながら言った。
僕と目を合わせぬようにしているのだろう。その視線は足元に投げ出されていた。
そこには何もない。滴り落ちた汗も、打ち付ける波の飛沫も、何もかもが焼けた石に溶けて、死んでしまっている。
けれど、彼はひたすらに視線を落とす。そこに映したのが、果たして後悔か、それとも怨嗟か渇望か。一つではないのかもしれないし、一つも無いのかもしれない。
僕は彼ではない。彼を理解することなど、本質的には一つだってできないのだろう。
僕と『あいつ』は双方向だったが、僕と彼から伸びる線分は、明らかに逆方向に伸びている。
本当なら一生交わることのない。
僕と彼とは、逆方向。
だからこれは、本当ならあるはずのない邂逅だったのだ。
だけど、僕らの縁はどうしたことか交わった。奇妙にも、或いは驚くほど都合良く。
毛先ほどの僅かな確率で――かち合ったのだ。
「どうせ、俺が認めなくたって、あんたは調べようとするだろ? そういうのが一番、面倒臭えんだ」
彼が、僕をしっかりと見据える。逆鱗に触れたのか、それとも、もっと取り返しのつかないことをしてしまったのか。
ただ一つ、確かなこととして。彼は僕と向き合ってくれた。だから少なくともこの一幕は、もう僕の空回りでは終わらない。
「話してやるよ、俺のこと。馬鹿なガキが、なんもかんも掴もうとして――結局、全部を取り落とした話をさ」
そう言って、彼は緩やかに腕を掲げた。
油の切れたロボットのようにぎこちない動きで――その、左腕を。
***
俺が剣道を始めたのは、小学校の頃の話だった。
学級会で回ってきた、地域の道場のビラ。なんかそれが、妙に楽しそうに見えたんだ。
子供って、剣士に対して変な憧れを持ってたりするだろ?
だから俺も、両親に頼み込んで、防具と竹刀を揃えてもらったっけ。
ただ、もちろん、現実はそんなに甘くなかった。
うちの道場は地元でも有名な強豪で、小学校低学年でもお構いなしに容赦なく、吐くまで稽古をさせられた。
朝から晩までやった跳躍面で足の皮は剥け、素振りを続けた掌には絶えず血豆ができた。かかり稽古ではうぜえ上級生どもに何度も体当たりで吹き飛ばされて、一度は脳震盪で運ばれたことだってある。
防具は重くて暑いし、何より臭え。夏なんかは特に地獄だ。風通しの悪い道場の中で、何度酸欠と熱中症になったかわかんねえ。
昇級昇段、道具の維持や新調にも金がかかる。おかげで俺は、欲しい漫画もゲーム機も全部おあずけを食らった。周りの連中が放課後にこぞって遊びに行く中、竹刀袋を背負って逆方向に歩く自分が、本当に惨めに思えたもんだ。
「……止めたいとは、思わなかったのか?」
目の前のあいつが口を挟む。俺はそれに、「まあな」とだけ返した。
まったく、本当に気に入らない。どうしてこいつは、こんなに俺たちに突っかかってくるのか。
そして俺も、どうしてこんな奴に自分のことを話さなきゃならないのか。考えれば考えるほど、むかっ腹が立ってくる。
……本題に戻るぜ。俺はそんな中でも、剣道を続けていた。
なんでかって、それは――。
『やっぱり、将吾はすごいよ! なんていうか、キラキラしてるの!』
――お前には、関係ないだろ。
別に、止める理由もなかったからな。稽古は辛かったけど、練習すればするだけ結果は出たし、俺を目の敵にしてた上級生だって、中学に入る前にはみんなブッ倒してた。
それに、何より勝てるのが面白かったんだよ。
勝負事なんて、そんなもんだろ。結局、勝てれば楽しいし、負けたらつまんねえ。試合に勝ってきた俺はみんながチヤホヤするけど、たまに負けたら憐れむような目で見てきやがる。
だから俺は、誰より練習したんだよ。勝って、勝って。そうすれば皆が俺を認めてくれる。
そう、思ってたんだ。
だから高校に入ってからも、俺はとにかく練習したさ。監督にオーバーワークだって何度も止められたけど、俺は舐められるわけにはいかなかった。
俺には、もうそれしかなかったからな。ひたすら、周りも見ないで突っ走ってきたから、いつの間にか、剣道以外にロクな取り柄がなかったんだよ。
――俺が、部の先輩方を全員叩きのめしたのは、入学から一か月もしない頃だったよ。
光代町高校は強豪だって聞いてたけどさ、結局なんてことはなかった。俺より努力してる奴はあそこにいなかったし、死に物狂いになってる奴もいなかったんだよ。
そん時に確信したよ。たぶん、俺には才能があった。そして、それを活かしきれるだけの環境。それに、理由も。
だから、あの夏。俺は高校剣道の頂点に立つことができたんだ。
みんなが喜んでくれてさ。ニュースも、新聞も、こぞって俺のことを取り上げた。
そりゃあそうだよな、高校一年の新人がインハイ制覇なんて、それこそとんでもない。出来すぎのサクセスストーリー、今どき、スポコン漫画でも見ないようなふざけた話だ。
でも、俺は楽しかったんだよ。何より充実してた。何もかもが上手くいって、みんなが俺を見てて、望むもんは全部手に入る。
間違いなく、俺は俺の人生の主役だった。
だった、から。俺は気が付かなかった。
俺が何かを手に入れるために、誰かを打ちのめしてきたのなら、必ずどこかに打ちのめされた人間が存在してて、そいつらにとって、俺の存在は面白いもんじゃあない。
そんなこと、考えなくたってわかってたはずなんだ。
「……じゃあ、その腕は」
そうだ、と、俺は左腕に目を落とした。
ビール瓶のように太い前腕。皮下にテニスボールでも埋め込んだみたいに膨れた上腕と、がっしりとした三角筋。
何もかもが、俺の培ったものの成果だ。今でさえ、変わらず剣が振れるのではないかと錯覚しそうになる。
ただ、肩関節に走る痛みと軋む感触が、その幻想を許してくれない。俺はもう、あの頃には戻れないのだと、そう実感させられる。
『お前さ、ずっと前からウゼえと思ってたんだわ』
忘れもしない、その年最初の寒稽古の後のことだった。
俺を道場の裏に呼び出したのは、一個上の先輩。人当たりが良く、後輩のことをよく気にかけてくれる人だった。俺も入部してすぐの頃から世話になってたし、俺が優勝した時も、自分のことのように喜んでくれていた。
この人は自分の味方なんだって、そう思ってた。
だからその言葉を聞いたとき、すぐには何を言ってるのかわからなかった。
『お前が来たせいでさ、俺らは立つ瀬がねえんだわ。他の一年も、お前の方ばっか見てる。俺らの方が先輩なのによ』
そう言って、先輩は俺を突き飛ばしてきた。冬のコンクリ打ちっぱなしはすげえ冷たくてさ、俺もすげえ頭に血が上っちまったんだ。
黙ってればよかった。
そうなのかもな、きっと、そういう選択肢もあった。でも、あの時の俺はもうどうしたらいいかわからなかったんだよ。
裏切られて、蔑まれて、否定されて。あの時の笑顔もかけてくれた言葉も、何もかもが嘘だったみたいにひっくり返されて。
ぐちゃぐちゃになった頭で理性とプライドを秤にかけて――その結果、俺は先輩に掴みかかった。
掴みかかって、やみくもに拳を振り上げて。正直、この時のことはよく覚えてねえよ。
ただ、もみ合いの中で先輩に引き倒されて、強く打った肩の痛みだけは今も忘れない。
体の中で鳴る、気持ちの悪い音も。
遠くで響く、あの悲鳴も――。
「――っ」
じくり、と。
肩が疼く。そして、あの冬の日に感じたのと同じ、焦りと不安、そして体の中が空っぽになっちまったみたいな心臓の浮遊感が、いっぺんに蘇ってきた。
何かが終わる時ってのは、いつも突然だ。俺の物語の終わりも、そうだった。
それで、おわり。
俺の積み重ねてきた努力も、あったかもしれない未来も、何もかもがあの日に全部閉じちまった。
俺はゆっくりと、上がる最大限の高さまで左腕を掲げた。話の通じない目の前のこいつにも、それがわかるように。もうどんな言葉を重ねても、どうしようもないくらいに終わっているのだと教えるために。
「俺の腕はこの通りだ。もう二度と、肩より高くは上がらない。マトモなスポーツはもうできないだろうし、勿論、剣なんて一生振れねえんだ」
言葉が口から零れていくたびに、その通り道の悉くが痛んだ。喉も、舌も、唇も。
もう乾ききったはずだった。
乾燥しきった心は硬く硬く、もう何があっても揺るがないと思っていたのに。
言葉にすると、こんなに、痛い。
俺はもう、あの板張りの正方形には戻れない。
俺はもう、自分の価値を証明することができない。
俺はもう、あいつに――。
「……どうだ、これが、事の顛末だよ。満足したか?」
鼓動に合わせて激しく痛む心中を悟られないように、俺は目の前のそいつに、そう言い放った。
きっと、こいつは奪われる痛みを知らない。
何もかもを失った俺に、上っ面の言葉をかけるだけだ。そして最後はきっと、何の価値もなくなった俺を見捨てるだろう。
そういうものなんだ、きっと。世の中には他人しかいない。手を取り合ってニコニコ笑ってても、腹の中では舌を出してる。嫉妬と損得勘定が合言葉で、最後は自分のエゴのために、躊躇もなく切り捨てる。
俺はもう、誰も信用していない。
しないと、決めた。
「……ああ、ありがとうな、話してくれて」
なのに、返ってきたのは、意外なほどに穏やかな反応だった。
別に、お涙頂戴の話で同情を誘ったわけじゃない。でも、もっと動揺したっていいはずだ。
少なくとも、何かしらのリアクションはあるものだと思っていた――実際、今までに「話を聞く」と言って近寄ってきた連中はみんな、わざとらしく眉を寄せ、薄っぺらい言葉を投げかけてきた。
だけど、こいつは違う。
ただ数回、納得したように頷いただけだ。虚飾だとすぐにわかる慰めの言葉も上辺だけの笑みも、そこにはない。
合点がいった、と、そう言いたげですらあった。
「ずっと、考えてたんだ。お前がどうして、僕のことを信用してくれないのか。奥瀬にいる間の一時だけ僕に合わせてくれれば、お前はこの数日の間を大した苦も無くやり過ごせただろう。でも、お前はそうしなかった」
「……何が言いたいんだよ」
俺はわざと突き放すように言った。
気持ちの悪い感覚だった。心筋を直に撫でられているような、『俺』の根幹に触れられているような。
なんにせよ、このまま続けていれば、俺はきっと暴かれる。
今まで必死に抑え込んできた、腹の底のドロドロを、無様にぶちまけることになる。だからそれが自己防衛であるということは、気持ちが悪いくらいに鮮明に、俺自身が理解していた。
この先を聞いてはいけない。
この先を聞かなければならない。
真っ二つに分かれた心が、俺の判断をほんの一瞬、鈍らせた。
こいつの前から立ち去ることのできる、最後の機会を永遠に遠のかせた。
だから俺は――その言葉を確かに、聞いてしまったのだ。
「――結局、お前は助けてもらいたがってるんだよ、クソガキ」
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