第3話
1時間ほどかけてヒアリングし、その後、初めて先生との問診になった。
毎月100時間を越えていた残業や、私が一番悩んでいた患者からの暴言──これは続けて通院している患者ではなく、初診の患者ばかりだった。混んでいる、待たされている。それで怒って私のような受付のスタッフに当たり散らすのだ。「医師を出せ」と喚く人もいて、その対応は私には荷が重かった。
主治医となるI先生は穏やかで優しい人だった。メンタルヘルス特有なのだろうか、決してこちらの言葉を否定せずに寄り添って聞いてくれる。それだけのことが泣くほど嬉しくて、私はその場で泣いてしまったと記憶している。I先生は「鬱病になりかかっているから、診断書を書くからお仕事はお休みしなさい」と言った。
勤務先のクリニックに事情を説明し、翌日からの休業許可をもらった(というより、医師の診断書が出た時点で休ませない選択肢はない、と言われた)。傷病手当金という制度があるので、こちらを利用しなさいとも言われ、指示されるままに受診して用紙をもらい、I先生のクリニックに電話して聞いたら「次回診察の時にその用紙を持ってきて下さい。1年半は傷病手当で出ますから、退職する場合は任意継続保険にして下さいね」と丁寧に説明してもらった。
さほどの貯金もなかったので、この制度には随分助けられた。
両親に「鬱病一歩手前」と告げるのは勇気がいった。当時は「鬱は心の風邪」などと言われていて、間違った意味で解釈されていた。
私自身も「誰でもかかるけれどすぐ治る」と勘違いしていたし、両親も同様だった。
「治るまでは自宅療養してたらいい」──そう言った両親が、半年後には「まだ治らないのか」と言い出すのである。
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