第73話「チェーホフの銃」




 僕の初恋は智明だった。

 その感情をBLだとか後付けだとか蛇足だとか言わないで。

 ただの「恋」だって言って。

 ただの「愛」だって言って。

 記号二つで表そうとしないで。

 僕の感情を無駄だって思わないで。

 一時の気の迷いだって思わないで。

 隠してた努力を無駄だって思わないで。



 智明、だいすき智明。


 最初は嫉妬だったなって思った。

 智明を取られたくないって威張ってた。

 でもそれが間違いだって知った。


 親が同性愛者嫌いだったから。

 ヘテロ至上主義者だったから。

 智明と遊んでたら「女の子とも遊べ」って言われた。

 ホモか?って言われた。

「そうだよ?悪い?」って言いたかった。

 言えなかった。


 今思うと酷い親だよなって思う。

 でも僕にとって親はあの人たちしかいなかった。

 でも他にもいた。

 あの人達以上に優しい親が。

 それを知れたのは晶さんのおかげだった。


 智明。

 もし僕が好きだったって言ったらどういう反応するのかな。

 もう好きじゃないけど、好きだった、って言ったら、ちょっとは残念がってくれるかな。


 智明。

 智明、ねえ智明。

 智明。だいすきともあき。







「ともあき……。」













 全てが無に等しく感じる。

 俗に言う倦怠感が身体を襲い、俺を捻くれ者にする。


 俺は立派な人間になりたい。

 俺は立派な男に、立派な人に、尊敬されるべき存在にならなければ、いけない。

 俺に全てを与えてくれた皆に、恩返しをしなければいけない。

 俺は、俺は何もかもを胸に刻んで、しっかり咀嚼して味わなければいけない。

 俺は、こう生きなきゃ、俺は、俺は。





 …沢田智明に、ならなきゃ、いけない。


 俺の、理想の男に。





 俺のこの髪は、智明らしくない。

 綺麗な耳?智明らしくない。

 なあ智明、俺はどうすればいい?


 普通に生きろ


 そんな事言わないでくれ

 俺はお前になりたい

 俺はお前みたいに普通に生きたい


 真似なんてしないでくれ


 智明、頼む、答えてくれ

 智明。

 俺は、俺はどうすれば…。


 王になれ 王になるんだ︎■。


 王になんてなれない

 全てを無に還すような そんな事


 お前ならなれる。


 やめてくれ、頼むから。

 俺はお前になりたい

 智明、答えてくれ。

 俺はお前になりたい

 手を伸ばしてくれ

 俺の髪を撫でてくれ

 お前という、お前の、お前の、全てを

 智明。

 智明。

 智明。

 智明。








 共に生きようと、言ってくれ。




 ……あぁ、これが酩酊感だ。

 そうだ、そうだぞ






















 龍馬。








 俺の、いちばんの、宝物。





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