第72話「こんなのただの文字列」
マンションの狭いスペースに智明の咆哮が響き渡った。
それは僕達5人の内臓を震えさせ、僕のトラウマを呼び覚ますトリガーになった。
なってしまった。
あの怪物と同じ声。性衝動に芽生えたあの日から見始めた悪夢を思い出してしまった。
獅子に似た怪物が僕を襲い、身体を引き裂き咀嚼する悪夢。
僕の両親が、僕の部屋で体を絡め、愛を確かめ合っている姿を見た時の嫌悪感を思い出した。
汚い声で喘ぎ、両親が何をしているのか不安で震えている僕を見つけると「混ざるかい」と声をかけたあの母親の恍惚とした顔が脳味噌に過った。
明人君にレイプされた時も思い出した。智明と一緒に風呂に入った時も思い出した。全部、同じように勃起していた事も思い出した。
そうだ、あんたらは明人君の思いをBLだなんていうくだらない文字で例えたよね。
僕の彩さんへの思いをNLだとかいうくだらない文字で例えたよね。
晶さんの、彩さんへ対する思いをGLだとかいう二文字で例えたこともあったよね。
僕の、僕達の感情をたった二文字で例えられた。
じゃあ僕もあんたらを真似して、たった十一文字でこれから起きる…僕にとって最高の愛情を表現してあげるね。
「智明が僕を殴る」
血と唾液が混ざり胃を満たした。血走った目で僕を見つめる智明が綺麗に見えた。
不安そうに見つめている4人が馬鹿に見える。いや馬鹿なんだよあいつら。
皮膚が裂ける。どろりと鼻から熱が漏れる。それが智明の手を濡らした。気にせず殴る智明。
もっと殴れよ。
気付いたらそう呟いていた。
目を見開いてちょっと引いてる智明。
嬉しいな。僕にこんな熱い感情持ってくれてるなんて。
胸倉を掴み押し倒す。
驚く智明に拳を振り下ろす。
血が出て歯が折れた。
わー智明は歯が折れてもイケメンだね。
鼻血が出てもイケメンはイケメンだ。
くたばれ。
智明の皮膚が裂けた。僕と同じ場所の皮膚が裂けて血がドロリと流れた。
「おそろい」って言ったら何とも言えない顔してる。可愛いね智明。
智明が吐いた。
思い切りお腹殴ったら吐いた。
吐瀉物が僕の身体にかかった。
僕はそれを手で掬い取って舐めた。
「…っ…!?」
引いてる智明が可愛い。
吐瀉物がついた頬を手で拭い、僕から少し距離を取る智明。
「ねえ智明ー、お前の親友こんな奴なんだよ。お前のゲロ舐めてんだよ。お前が守ろうとしてくれた奴こんなキモいんだよ。それでもまだ親友って言ってくれんの?」
笑ってみせると、歯と上唇の間でゲロと血と唾液が混ざってぐちゃりと音が鳴った。
それが智明にも聞こえたのか、分かりやすく怯えてからそっと僕から視線を逸らした。
ほら、貴方こんなの読んだらイラッとしちゃうでしょ。
気持ち悪いって思うでしょ。ね。
嗚咽した?僕の事嫌いになった?
これでもまだBLって思う?
まぁ殺し愛って言葉もあるくらいだもんね。
興奮してる馬鹿もいるのかな。
気持ち悪。一生一人寂しく抜いてろよ。
「あのな、龍馬…お前…お前に…」
ぜぇぜぇと喉を鳴らしながらそう呟いて、智明が鞄からとある物を取り出し
それを僕に向けた。
「それ…本物?」
智明が取り出した物は拳銃だった。
うわ、やば。興奮する。
それだけでイきそう。
智明が僕に銃向けてる。
殺す気なんだ。
うれしい。
智明が
僕に
こんな感情
持っててくれてたなんて。
うれしい。
うれしいな。
うれしい
「撃ってみろや沢田ぁ!!!!!!」
さっきの智明に負けないくらいの大声で、僕が人間の中で一番怖くてかっこいい晶さんの真似をして叫んでみると、唇をぐっと噛み締め、涙で瞳を輝かせながら
銃口を、自分の頭に向けた。
は?
待て
おい
やめろ
ともあき
やめ
ともあき?
やめら
しぬな
ともあき
「ともあき!!!!!!!!!」
気付いたら走ってた
間に合わないって分かってんのに走ってた
ともあきが
智明
いかないで
「龍馬、俺は、お前のためなら死んだっていい。」
智明がそう呟いたのを最後に、あきらさんが僕の前に立ちはだかり、僕の頭を掴んで頭突きをしてきた。
うっわ古典的、ダッサ。
って思いながら、僕はその場に崩れ落ちた。
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