第71話「本当の主人公」




 トイレで晶が言った言葉を思い出す。


「呼び出した理由、考察できるか?」

 心当たりはあるけど、何故か、隠さなきゃいけないような気がした私ははぐらかした。

「考察して何を対策するつもりなの」と。

 晶は納得したのか頷き、おとなしく龍馬君のいる場所に向かった。




 龍馬君に電話した時、私が彼に言った言葉も、同時に思い出した。




「最後にひとつだけ、言っても良い?」

『うん…』

 か細い声で返事する龍馬君。

「…」


 言おうか迷った。私の言葉は無責任な上に横暴だったから。


『…朱里さん?』


 でも、私の言葉で、龍馬君を救える可能性が一ミリでもあるのなら。


「…龍馬君が前、智明の家で言ってたように、秘密を共有し合わない友達も良いと思う」

 震える声。龍馬君は相槌を打ちながら聞いてくれた。

「でもその結果龍馬君は苦しんで…晶は一人でずっとわけわかんないことやってたわけで…」

 何故か濁る視界。

「だから私は、悩みだったり自分の本質を揺るがしてしまうような秘密は、大事な人に共有し合うべきだと思うんだ」

『…』

「たとえ、喧嘩をしてでも」




 殴り合う二人。

 血が舞い、倒れ、それでもずっと殴り合ってる二人。

 私には愛情表現に見えた。


 血を浴びる拳、いつの間にか笑顔になってる智明。


「俺らさ!こうやって!喧嘩したことあったっけ!?」


智明の胸倉を掴みながらそう尋ねる龍馬君。


「ない!あってもないってことにしよう!!」


 元気にそう答える智明。


「あはは!なんだそれ!!」




 …龍馬君…



「智明そろそろ限界なんじゃない!?」

「全然!!めっちゃ舌噛んだししばらく何食っても血の味しかしなさそうだけど!全然平気!!」

「マジで!?こんな、血まみれなのに!?正気!?そろそろ終わらせたいんじゃない!?」

「絶対嫌だね!!俺はさ!!死んでもここを動かないぜ?龍馬!!」





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