第70話「一片」


 破裂音、そして呻き声。布が激しく擦れる音。

龍馬君の血が龍馬君の服にじんわりと染み込んでいく。

智明君の頬に龍馬君の拳が当たり、口から血をぼたぼたと流す智明君。


歯が折れ、口の中が切れ、それでもお構いなしに殴り合う二人。

嬉しそうな龍馬君、悲しそうな智明君。

 何年も生きて、繰り返してきて、その中で、初めて見る光景。

 11月24日から先。初めての、体験。



何か変わるかもしれない、今回は違うかもしれない。直感でこう思った。



 止めようとする晶ちゃんを制止し、ただ、今は見守ろうと伝えた。


 これが、何か、変化の…一つになれば。


 龍馬君が、生きやすくなる、理由の一つになれば。


 私の初恋。


 私の、大好きな人が、少しでも、生きてて、楽しいと、思ってくれたら。




「龍馬君…」








新学期、智明と明人君と僕の三人でショッピングモール行ったの楽しかったな。

その後二人がバイト先に来てくれて嬉しかったな。

アクキー交換できたの嬉しかった。

学食で彩さんと二人で色々話したの楽しかった。

能力について知れて嬉しかった。

4月後半にみんなでカラオケとショッピングモール行ったの楽しかった。

皆の色んな顔見れて幸せだったな。

皆の色んな顔見れて幸せだったな。

エアホッケー楽しくて、上手く出来て、あ!特技できたかも!とか思ったっけ。

ゴールデンウイークに誘えなかったのちょっと後悔してる。来年は誘えるかな。

彩さんのこと好きだって気付いたのこの日だったっけ。

5月に明人くん家に行ったの、怖かったけど智明以外の友達の家に行ったの初めてだったから嬉しかったな。

朱里さんと二人でカフェに行ったのも楽しかった。

晶さんとも合流したっけ。

怖い思いもしたし、させたけど…楽しかったな。

智明の家に行って、晶さんが僕に「もう心は読まない」って打ち明けてくれたの嬉しかったな。

皆で学食に行ってご飯食べながら内緒話したの楽しかったな。

女の子三人が転校生のお話しする時微塵も息が合ってなかったの面白かったな。

その後の智明、明人君、僕の三人で出かけて、偶然女の子三人とも合流したとき楽しかった。

ポピーラビット、今も大事に持ってる。

お揃いで買いたかったな。買えるかな。

タピオカも美味しかった。味はしなかったけど。

テスト勉強も楽しかったな。

来年もみんなで集まって勉強会したいな。出来るかな。

僕の家で勉強会して、みんなで飲み物飲みながら能力の話したのも楽しかったな。

晶さんが僕の家に来てくれたのも嬉しかった…晶さんは覚えてないみたいだけど…。

旅行も楽しかった。

景色が綺麗で、朱里さんと智明の話もして…本当に楽しかった。

明人君大暴れに朱里さん大覚醒…猫が犯人のスパイゲームも楽しかった。

いっぱい歩いて結局いつものファミレスに行ったのも、明人君、彩さん、僕の三人で回ったのも楽しかった。

コーヒー美味しかった。

学校で、彩さんに抱きしめられた時、嬉しかったな。

緊張して震え止まらなかったけど、夢を思い出して…なんか、安心して、全部を肯定してくれているような、そんな気がして。

学校に行けなくて一人でうじうじしてた時、みんながお見舞いに来てくれたの嬉しかったな。

皆が聞かせてくれる近況全部面白くて、嬉しかった。

朱里さんが電話してくれたのも嬉しかった。

カウンセリングで自分の事話せたの嬉しかったし、池崎直樹さんといっぱいいろんな話したのも嬉しいし、めちゃくちゃ楽しかったな。

夢も見つかって、大好きな人が僕の書いた文章を読んでその上褒めてくれた。

本当のお母さんに会えたのも嬉しくて…僕の話いっぱい聞いてくれて。

皆でストーカー捕まえたときも楽しかった。

智明がストーカーの子に「髪短いの似合ってる」って言って対処したの凄かったな。

その後朱里さんがアラートで苦しそうだったの、ちょっと胸が痛かった。

明人君が、家に僕を、呼んでくれたの、嬉しかったな。


全部、楽しかったな。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る