第74話「実質最終話」



 目を覚ました。

「…目ぇ覚ました?」

 起きてすぐ視界に入ったのは、ずっと付きっ切りで僕を見てくれていたのか、どこか疲れた様子の晶さん。


「晶さん…僕、何日寝てた?」

「三時間」

「あぁ…」

「しょうもない時間」

「確かに」

「どうせなら一日丸ごと寝えや」

「ほんとにね…」


 …


「ねぇ晶さん…」

「?どした?」

「智明は…?」


 そう尋ねると、晶さんは「ちょっと待ってて」と言い、立ち上がって部屋から出ていってしまった。


 …にしても…。


「ここ、まさか…晶さんのおうち…?」


 広い和室で…わ、なんか変な金ぴかの置物ある…でも、こんなお家…冷蔵庫ないほうがおかしくない…?


なんて考えていると、晶さんが、包帯だらけの智明を連れてきた。

「ごゆっくり~」

「ありがと晶さん」

「…あは、お前ミイラ男みてえだな」

「鏡見てから言えよ」

「ごめんごめん…傷大丈夫か?」

「大丈夫だけどさ」

「うん」

「一回自分のほっぺにデコピンしてみていい?」

「やめろ、絶対痛いって」

「ぎゃーーーーー!!!!!」

「ほら!!言わんこっちゃない!!!!」


 …あぁ、なんだ、普通に話せるじゃん…。

 僕がデコピンしたほっぺを恐る恐る撫で「大丈夫か?」と尋ねてくる智明を見ながらそんな事を思った。


「ねぇ智明、大切な事話したいんだけどいい?」

 そう聞いてみると、智明は目を丸くしてから、数回頷いた。


 悩んだ。何を言おうか、物凄く悩んだ。

 …


「…朱里さんと幸せになってね、応援してるからさ」

「うん、お前もな?相手が…彩ちゃんか、明人かは分かんねえけど」

「…気付いてたんだ」

「当たり前だろ?何年お前の幼馴染やってると思ってんだ?」

「…ありがとね、智明」

「こちらこそ」


 智明はさ、僕の思いに気付いて、あえて無視してくれてたのかな。

 ねえお母さん、僕とは大違いでしょ?僕が智明の真似したってなれるわけないじゃん。


なんてことを考えながら智明の横顔を見ていると、ふと、智明が持っていたあの拳銃が頭に過った。


「智明、あの拳銃誰から貰ったの?」

 と尋ねてみると、智明は少しだけ黙ってからこう答えた。

「晶だよ…お前と、朱里と晶の三人が家に来てくれた時に渡された」

「そ、そうなんだ…」


 じ、じゃあ…あの時本屋さんで向けられた拳銃は…本物だったんだ…。

「突然拳銃向けてごめんな」

「いや、大丈夫…」

「…龍?」

「え?あー、なんでもないよ…」


 あれ本物だったんだ…拳銃握っちゃったよ僕…ヒィ…。

 拳銃持ってる人に「弱虫」とか言っちゃったよ…。

 どうしよう…晶さんの事がもっと分からなくなっちゃった…。


「…龍、家…どうだった?」


 と…突然だな。

 でも、事情を知ってる人にはちゃんと報告しといたほうがいいよね。


「お父さんもお母さんも僕の顔見て喜んでたよ」


 そう言うと、智明は、ぎこちない笑顔で「そうか」と言った。

 ここで、「よかったな」って言わない智明は、本当…心の隅までいいやつだなって思っちゃうな。


「…智明は、お家どう?」

 お返しにそう尋ねてみると、智明はどこか悲しそうに「慣れてきたよ」と返事した。


「…卒業したらどうするの?家継ぐ?」

「…継ぎたい気持ちはあるし、継げるなら継ぎたいけど…逃がして、普通に生きるチャンスをくれた親父の思いは無駄にしたくない」

「そっか…分かったよ」

「…」

「智」

「…あは、久しぶりにその名前で呼ばれたわ…」

「僕も久しぶりに呼んだ気がする」

「…」

「…智明」

「うん?」

「……新学期さ」

「うん…」

「…三年の一発目…」

「…」

「僕ら二人…ミイラ男で迎えんのか…」

「ふふ…あはは!そう考えたらなんか間抜けだな俺ら!……あー…笑ったら痛ぇ…」

「マジで滑稽!痛がってんの面白……痛い…」



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