第63話「デジャヴ、そしてジャメヴ2」



「なあ!秋あった?もう冬やん!葉っぱもう全部散っとるし!!」

「ほんとにそれ!!「読書の秋~」とか言って漫画読んでたら朱里ちゃんに「もう冬だよ」って言われてビビり散らかした!!」

「ほんまに!!」


11月24日。

11月はうちの誕生日がある月。

秋が好きだから、小さい頃は「11月28日までは秋だ」と言い張っていたけど、もう諦めることにする。

寒すぎる。これが秋だと言い張るのにも限界がある。


「晶ちゃん寒がりだね?」

「冬にパーカー一枚で出歩く彩ちゃんが異常なだけやろ…。」

「手触ってみて。」

「……冷た!!!!氷みたいになってるやん!!!!!!!」

「声でか。」

「ごめん…寒くないん…?」

「めっちゃ寒い…。」

「アホやろ…マフラー使い?」


…彩ちゃん。


カウンセリングに行くという彩ちゃんに、無理を言ってついてきた。

理由はただ側にいたいから。

こんな事言ったら「らしくない」なんて思われてしまうだろうけど…うちは、恋をするとこんな…。

…だめだ、いつもみたいにいい言葉が浮かばない。


……最近、また能力を使い始めた。

何に使ってるか、どういう理由で使ってるかは言いたくない。

馬鹿らしくて…呆れられるだろうから。


「…カウンセリング、ついてきてくれてありがとね、晶ちゃん。」

「気にせんといて、うちこそ「ついていきたい!!」ってわがまま言うてごめんな?」

「切腹。」

「せ、切腹…?」


…こんな、くだらないやりとりを愛おしいと思う。

大好きで堪らないな、と、思ってしまう。


彩ちゃんの横顔をこっそり見つめていると、彩ちゃんが微笑みかけてくれた。

…バレた、最悪。


まあでも、彩ちゃんの笑顔見れたからいいか、なんて呑気な事を思ってしまう。

恋愛は人を馬鹿にする、と、どこかで聞いたような気がする。

事実だから、この言葉を考えた人も恋愛で馬鹿になったことがあるんだな…なんて思うとすべてが愛おしく思えてきて。


彩ちゃんが口を開く。


「2018年11月24日は、私にとって大事な日だった。」



え?


「彩ちゃ」

突然胸倉を掴まれ、壁に叩きつけられる私。

「ぐ…っ…!」

背中に鈍い痛みが走る。

「さ、彩ちゃ」


「何してんの」と言いかけてやめた。


彩ちゃんが、私の、胸に顔を埋めてる。


「さ、彩ちゃん…!?」

みみみみみみみみみみにねつがしゅうちゅうして、だめだ、考えられない。

鼓動が耳にまで響いてる。

彩ちゃん…突然……何を……。

その時突っ込むトラック。


猛スピードで私たち二人がいた場所へ突っ込み、車体が彩ちゃんのパーカーのフードを掠めた。


…?


は?


「彩ちゃ…ッ!!」


彩ちゃんの顔を掴み、無理やりこちらを向かせる。


「何してんの…!?予測して、助け」

最後まで言おうとしてやめた。


「…なんで、泣いてんの…?」

そう問いかけると、彩ちゃんは目を開き、力強く私を抱きしめた。


「さ、彩ちゃん!?」

体温が上昇し、トラックに驚き跳ねた心臓が、彩ちゃんで塗り替えられていく。


「…やっとせいこうした…」


彩ちゃんの、この言葉を聞くまでは。


「…え?」


鎮まる心臓

怖いくらい静かになって、足元に血が貯まってるような感覚に襲われる。



「七樹萌奈を、しってる?」



「…どこでその名前を知った」

「狭山恵美先生なんでしょ、萌奈さんって。」

「えっ」

「晶ちゃんのお姉ちゃんみたいな存在で、晶ちゃんのお母さんにとっては妹みたいな存在。」

「なんでそのこと」

「抗争が起きて晶ちゃんのお母さんは晶ちゃんを庇って亡くなった。」

「彩ちゃ」

「萌奈さんは最初晶ちゃんを見殺しにした、でも晶ちゃんのお母さんがそれを許さなかった。」

「お母さんが」

「晶ちゃんを長生きさせるために、萌奈さんはどんなことだってした、今もそう。」

「ま、まって彩ちゃ、萌奈が力を…持って…?」

「おねがい」


突然動きを止める彩ちゃん。


「…あきらちゃんが、生きないと…朱里ちゃんも、明人も、苦しい思いしちゃうの」

「…え?」

私が生きないとって、どういう…。


「…2007年、抗争に乗じて、企業が子供たちを誘拐し始めた。」

「…!」

「誘拐犯は白スーツの男って呼ばれてて…三回目ではそいつらの実験に明人とか、朱里ちゃん…智明君に、龍馬君、…一口ちゃんに宮部ちゃん、太秦ちゃん、烏丸君、それに…私市ちゃん、化野君、蓮台さんが使われた。」

「…!」

「この子たちには何の罪もないのに…!だから企業をぶち壊さなきゃいけないんだよ!私は…!」


…聞き覚えのある名前があった。


「…彩ちゃん、あの、さ」

「…何?」

「…彩ちゃん…人生、何回目…?」


のんきな質問だと思った。

でも聞くしかなくて。


彩ちゃんはこう答える。


「…もう、おぼえてない…」



「萌奈さんの妹さん、心を読める子だったんだよね。」

「…うん」

「その子も、何度か…私と、萌奈さんと、タイムリープを繰り返してて」

「……」

「その結果、ストレスと、恐怖心で…自殺したんだよ。」

「……」

「最近智明君変な人が家に来てるらしいし、明人のこともあるし」

「……」

「あきらちゃん…わたし…もう、これ以上生きたくない…………」


私の胸に顔を埋める彩ちゃん。


ピンときた。

彩ちゃんが抹茶カフェで朱里の能力を言い当てたこと。

電話の相手についても、ピンときた。


全部事前に知ってるから…経験してるから…電話で何が起きるか教えてくれてたのか。



……萌奈も、生きたくないと、思ってるのかな。



…彩ちゃん。


「…電話、いつも、かけてくれた」

顔を上げる彩ちゃん。


「…それを言う役目は、ずっと…智明君だった。」

「…」

「…晶ちゃんが相手で…なんか、未来が、変わったら、良いな」




「彩ちゃん、好き。」


変なことを口走る私。

「…。」

「うちが、彩ちゃんに告白するのは、これで何回目?」

「…初めて。」

「じゃあそうやって、全部、初めてを…けいけんして、未来が変わる可能性に賭けよう?」

「…どう、やって?」





静かな部屋


柑橘系の、匂い。


赤らんだ、素肌。


早くなる彩ちゃんの鼓動。




「…わたし、悪い女?」




「うちの方が悪い女よ、さやかちゃん」




好かれたかった




愛されたかったんだよ




力はこうやって使えばいいのかって








彩ちゃんの大好きな、龍馬を





「やめよ、彩ちゃん」



驚くさやかちゃん



「…なんで?」




「彩ちゃんは龍馬が好きなんやろ?」




「…え?」




「何年も繰り返して…でも、彩ちゃんが病んで…人生を、辞めようと思わなかった理由に…なれないよ、私は。」




「……晶ちゃ」




服を着る私




「背中見せてごめん、ビックリしたよな」

「いや、その」

「いつもの彩ちゃんなら、こんなうちの誘い無視してたよ。」

「……」

「「友達でいたい」って言って…無視してくれてた。」

「……」

「彩ちゃんがうちの誘いに乗って、服まで脱いで…身体委ねようとしてるのは」

「……」

「うちの、背後にいる龍馬を見てるからや。」

「……真似、してるんだ…。」

「うん、でももうやめる…家まで送るわ…早よ服着て。」

「……マフラー…。」

「…あげるよ、持ってて。」






家の前。

怪訝な顔をしている明人。

その明人の肩を叩いてから、家に帰った。



街灯に照らされながら煙を吐く。


早死にしてしまうな、なんて思う。


ただ、こう、朽ちていけたら。


人として朽ちていけたら。


落ちる灰を見ながら思った。




らしくない、振り方だっただろうか。


彩ちゃんの言葉が頭に響いて残る。

計画を完遂させるためには、彩ちゃんの、龍馬への思いを……否定せなあかん。


…否定せずに、皆が、幸せになるには。



「……あは、龍馬二分割するしかないかもな~。」


灰の塊を踏んづけた。

ポケットに突っ込んだ。

灰まみれのズボン。


笑った。


もうすぐ誕生日。

産まれて17年経つ。

クソガキがクソガキに成長した。


空に向かって唾を吐くがそれは全て私へ降りかかり、私が誰かに吐いた言葉は、そのまま私へ降りかかる。

雨のように、滝のように降り注ぐのだ。


私は唯此処に居た。

それに意味など無く、理由なんて無いに等しい。

だがそれがどうした。



どうしたんだ。

どうしたんだよ。


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