第58話 夢見る乙女
夢を見た。久しぶりに。
いつも疲れているからか、それとも記憶力が悪いせいかは分からないけど夢を見ない日が続いていたから、こういう風にハッキリと夢だと認識する夢が、どこか新鮮で、どこか恐ろしく感じた。
真っ暗だった。
まるで私の将来のように、真っ暗で、先が見えなかった。
そんな暗闇の中で私はぐっと歯を食いしばった。
「晶?」
聞き慣れた声が聞こえた。。
「明人……?」
「やっぱり晶だ…龍馬さんかと思った。」
「なんでやねん…。」
「晶、僕、力使えるようになったよ。」
嬉しそうに微笑んでいる明人が目の前に現れた。
「あんた…彩ちゃんと似た力手に入れたんか。」
そう尋ねると、二度頷いてから下唇を噛み、か細い声でこう呟いた。
「なんでここに呼んだか…話させて。」
「うん。」
「…実は、ここでしか話せない話、したくて…。」
「うん…。」
「…漫画本って、知ってる?」
ざわりと、胸が痛んだ。
「漫画本…。」
「高校生の、男の子が先生に襲われる話。」
背後に誰かが立っているような感覚。
「…知ってるよな、晶は…いつも僕らの先を見て…色々考えてるから。」
「明人、違」
「違うって何?」
……何を、言おうとした?私は。
睨む明人に何を言おうとしたんだ。
「…その本を、処分するつもりだった。」
「……つもり?」
「してた、お前に見えんようにこそこそやってた、でも誰かが…」
「お前の家の奴が僕に嫌がらせしたわけ?」
明人の言葉がまるで槍のように私を突き刺す。
「……ごめん。」
「…なんで謝るわけ、自分になんか悪いとこがあるって思わなきゃ謝ったりしないだろ。」
「悪いとこしかないんよ、うちには。」
涙が、流れる。
「お前を責めたい訳じゃなくて…ただ、なんで見つけた瞬間僕に言ってくれなかったんだ?」
「…トラウマを、刺激すると思った。」
「確かに思い出したよ、刺激された、でも…それは、龍馬さんを襲えっていう命令を出したお前が言って良い台詞じゃない。」
……
「今全部話してくんなきゃ、僕はお前を…。」
「……」
「………嫌いに」
「……」
人との接し方をよく分からなかった。
上手く生きていこうとしすぎたせいで、色んな人を傷付けた。
明人もその一人で、その償いをしようとした結果、更に傷付けてしまった。
「あー…ごめん、嫌いになれないわ、ごめん」
「……え?」
「だって初めて出来た親友なんだぞ、大好きに決まってる。」
明人の言葉の意味を理解できない。
「何なんだろうな、利用されてさ?トラウマも刺激されて、妙なこと吹き込まれてめっちゃ色々追い詰められたのに…僕なんでお前の事嫌いになれないんだろ。」
何故か涙を流す明人。
「どういう意味…?」
「あは…そのままの意味だよ馬鹿だな。」
……
「晶の思考とかよく分かんないけどさ、なんか意味があって最終的には良い方向に行くんだろ?智明の暴力事件とか…気付いたら解決しててビビったもん。」
「……」
「だから、いつか良い方向に持って行ってくれるんだろ。」
「……うん」
「協力する、お前の…相棒になるよ、朱里に次ぐ…相棒に。」
「……ありがとう。」
「計画今教えて、協力してみたい。」
明人が目を輝かせている。
明人。明人。
……明人…。
「…これから、うちがお前に言うことは…結構辛い話なんよ。」
「…その話、誰が一番苦しむ?」
「……龍馬。」
「…智明との、話?智明と龍馬さんに昔何があったか、とか、そういう話?」
「……そう。」
ひんやりと冷たい風が吹くような、感覚がした。
「…龍馬さんは、智明を羨んでる、妬んでる、どっち?」
「……両方。」
「なんでそれを晶が知ってんの?」
…言おうか、悩んだ。
数秒間で何度もシミュレーションした。
めちゃくちゃに悩んで、頭が割れそうになる。けど、言わなきゃ。
計画を進める為に…明人を、守る為に。
「…協力者、が、いるから。」
震える声。
「……誰。」
眉間に皺を寄せる明人。
その明人の手を握り、大きく息を吸い込んでから…話す。
「…高校に入った時から、毎回、非通知で電話が掛かってきててさ。」
「……は?」
……当然の反応。
うちが相手でもこんな反応しちゃうわ。
「多分変声機を使ってて…言葉の雰囲気とか、声の温度みたいなのから…うちに電話してるのは女の子かなって、思ってる。」
「……それ、誰なの。」
……
「…明人、本人には、言わんといてほしい。」
「なんで、知り合い?知り合いがなんで変声機なんか使って……!」
「今言ったら全部が台無しになる、お願いやから…言わんといて。」
「…………分かった、親友だし、聞くよ。」
優しい明人。
大きい目を更に見開いてる。
…悩んだ。
誰にも言うなと命令された訳じゃない。
でも、でも……秘密に、しておきたくて。
……独占したくて。
今思うと、龍馬を困惑させるために言ったあの言葉。
「お前がいなきゃ今ごろあの子はこっちを選んでる。」
その言葉は、本心から出た言葉だったのかもしれない。
「……池崎彩。」
「……は?」
「あの子が何をしたいのかうちには分からん、微塵も理解できひん、でも…縋るしかない。」
「……。」
「縋りたい。」
「……姉さんが…好き?」
「……言わんといて、誰にも、お願いやから。」
「………うん、分かった。」
勇ましい表情で頷く明人。
「晶は…姉さんの、どこが好き?」
「…………笑顔。」
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