第59話「呪縛のようなもの」






放課後、教科書を鞄に詰め込んでいると晶と一緒に話した日を思い出した。

晶が、姉さんを……へぇ……。

いや食いつくところはそこじゃない。そこも大事だけど。


…龍馬、さんが……。

……辛いだろうな。

それを助ける…というか、救う手があれしかなかったのか。

…最悪だな、本当に。


「……。」


今日は龍馬さんの家に遊びに行こうかな。

お菓子とか色々持って行って…前髪を切りすぎてポンパドールにしてた朱里の事話したら喜んでくれるかな。


龍馬さんの特別になりたいとは今でも思ってる。

諦めたくないし、叶うなら龍馬さんの恋人になりたい。

でも今はそんなの関係ない。僕のエゴよりも龍馬さんの体調と精神状態の方が大事だ。


こほん、と咳き込んでから、保健室に行くと言っていたパラへ、これから龍馬さんの家へ行くけどお前も来るかと誘うため、保健室のドアを開く。


「パラ、迎えに来た。」


名前を呼んでも返事はない。


「…パラ?居ないのか?」

名前を呼びながら保健室へ入ると、ベッドの方からパラの声がした。


「明人…!?い、いるけど今はダメ!」

「なんで」

「と、とにかくダメなんだって!!」


…?

光が当たって影になって見える。

なんか…パラ…暴れてる?


「何、虫でも居た?」

「違っ……」

「なに?」

「あっ……!!」


はっきりしないパラが妙に気になってしまい、カーテンを開くと、そこには。


「……パラ?」


「……ッ!!!!!!!」


……目を、見開くパラ。


「見ないで!お願いだから!!見ないで!!!」


涙を流しながら、鞄やシーツで必死に体を隠すパラ。


「……パラ」

「………最近、こう、なったの」


ぼそぼそと話し始めるパラ。


「……」

「最初は、怪我かと思った…胸がじわじわ痛むのは、何かの病気かと思ってた」

「……うん」

「…さい、しょに、来た時、怖くなった」


…来た、時?

来るって…?

……あぁ、アレか……。


「…いつ頃、変わったの」

ベッドに腰掛け、涙を流しているパラの顔を見つめると、僕の方をチラリと見てからゆっくり答えてくれた。

「………日本に、一回来た時、晶さんと初めて会う前日に、身体、じわじわ変わって」

「…最初、どこから、変わってったの」

「……胸。」

「……パラ」


涙を、流すパラ。


「……こんな身体、気持ち悪い。」

「気持ち悪くない、個性だよ」

「…明人には分からない。」

「…種類は違うけど、変わるのは…分かるよ。」

「……ッ」


僕のシャツの襟を掴み、僕の胸に顔を押し当て涙を流すパラ。


「…みんなの前で着替えられない、何の服、着たら良いかもわからないし、自分が誰かも分からない」


「……うん」


「女の子の服は小さいし、男の子の服は大きい…肩とか、身体が薄いから…着たい服…不格好に見えて着れない」


「……うん……」


「スカート、着たら、邪魔だし、目が怖い」


「うん」


「喉仏、取れないし、取りたくない」


「……うん」


「……このままで、いたいのに、いれない」


「…パラ……」


髪を撫でる。


「誰にも言わない。」


「晶さん、知ってて…元の僕を大事にしてくれる」


「……うん」


……晶がこの前、病気、って言葉に過剰に反応してキツい言い方してたのは、こういう事情があったからか。


「パラ」

「……うん」

「…」


言えなかった。


「気にするな」と

「好きなものを選べばいい」と


言えなかった。


無責任な、気がして。



着ていたジャケットを羽織らせると、パラは目を見開いて不思議そうな顔をしていた。


「…パラ」

「……?」


……今の僕が言える言葉は、なんだろう。

パラにかけられる言葉は、なんだろうか。


「…綺麗だよ」

「……え?あの、こういう場合普通「お前の好きに生きろ」とか言う場面じゃないの?」

「無責任な気がして……」

「ここはそういうの気にせず言う場面でしょ…」

「シーンの都合とかどうでもいい、ただ綺麗だって言いたかったんだよ、帰るぞ、服着ろ」

「綺麗だよって何?」

「いいから!!龍馬さん家行くぞ!」

「また龍馬さんか」

「悪いか」

「多少?」

「多少って何」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る