第57話「友達だから?」




最近、龍の様子がおかしい。

あんなことがあったから仕方ないのは分かってる。

でも長年の親友として、幼馴染みとして、俺の、救いになってくれた龍を放っておくことが出来ず、龍の住んでいる家へ確認も取らずに走っていった。


「龍…。」

「…智明、何?」


顔を出す龍。

久しぶりに、しっかりと顔を見たような気がした。

龍の顔を、真正面で…はっきりと見たのが、初めてのような気もした。


「…顔、見たくて。」

「そっか……あの、ごめんね、最近…連絡くれてるのに…返せなくて。」

「謝らなくて良いよ、俺もしつこく連絡してごめんな…。」

「……あのさ、智明。」

「うん?」

「…智明が、もし、自分のお父さんとお母さんが、偽物だったら…どう思う?」


……頭を、鍋かなんかで殴られたような感覚。

スポットライトを当てられてるような、シンバルみたいな音が響く。


「……は?」

「智明も偽物なんじゃないかって…思っちゃうんだよ。」


「俺は、本物だよ。」

震える声。


「どうだか」

疑いを向けられる。


「俺、俺は…」

龍の目が、疑いの色に染まる。


「……」

「……」


沈黙。

俺は何も言えず黙り、龍は何かを試すかのように黙る。


龍の家を思い出した。

親御さんは、俺が遊びに行くと毎回嫌そうな顔をしていた。

龍はそんなの吹っ切って遊んでくれてた。

あの頃、龍は俺よりも活発で、逆に俺が龍に引っ張られていた。


だけど小学校くらいの時は俺が引っ張るようになって…あれ。

あれ?


龍と俺


「…ごめん、智明」

「え」

「お前に八つ当たりするなんて…僕らしくないよね」

「……龍?お前らしくって…」

「…分かってるでしょ、子供の頃…僕が……」


……龍の言葉が、頭に響く。

龍が子供の頃、あの偽物の親に何を言われていたのかを…思い出す。


「…あのな龍、好きに生き」

「智明はかっこいいから良いよね」

龍馬の低い声が響く。

「……は?」

「智明はさ、かっこいいじゃん、でも僕はかっこ良くなくてさ?僕が僕らしく生きたら…似合わないんだよ」

「龍…お前何言っ」

「顔面の話でもあるし声でもあるし体格の話でもあるんだよ」

「いや、龍…お前」

「あのね智明、僕だって」

「……」

「…来てくれてありがと。」


扉が閉まる音。


龍の言葉を、理解しようと…「僕だって」の後…何を言おうとしたのかをいくら考えても…考えたくもないような…事が浮かんで。


「……龍」


龍は、俺が帰るのを望んでる。


「あのな龍…俺は」

「僕といたらお前にも迷惑かかるんだよ」

「いや、お前突然何言」

「だから…ぼく…僕さ……」


龍が子供の頃、俺に言った言葉を思い出した。


『一緒に居たらお前も俺も嫌われて終わり』

だから俺はこう言った。

『僕は龍馬が好きだから一緒に居たい』


龍馬は困っていた。


体がでかかった俺と、体格が小さかった龍馬。

でもキャラは、素の自分は反対で。


…入れ、替えたんだ

いつの間にか、お互いから影響を受けて、入れ替わっていたんだ



「あのさ…智明」

「……?」

「……あのね」

「……」

いつもの、高い声に戻る龍馬。


「……きてくれて、ありがと」

「……龍」

「ありがと、また、明日…学校でね」


隣に住んでいる大原さんが飼っている猫が俺の足元へ来た。


俺の脛あたりを嗅いでから、そいつはどこか行きたいところがあるのか立ち去った。

立ち去っていった。

何も知らないかのように。

ずっと話を聞いていたのか…なんて、思ってしまう。

猫に言葉が分かるはずもないのに。

そう思いたくて、そう、思って。



龍馬は学校に来なくなった。



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