第10話 二人きり
「なんかカラオケ飽きたな…。」
と言いながら、コーラの入ったコップをコースターの上に置き、足を組む智明。
すると、晶さんが何かを思い出したかのように
「それならさ、次駅前にあるショッピングモール行かん?ええやろ?」
と言いながら、隣に座っている明人君の肩を抱いた。
…晶さんって智明以上に人との距離近いなぁ…。
すると、明人君が恥ずかしそうに俯いて身体をぎゅっと縮めた。
「……晶…やめて…恥ずかしい…。」
明人君がそう言うと、晶さんが少し驚いてから
「シャイやなぁ…可愛い可愛い…。」
と、ニヤニヤしながら明人君の頭をワシワシと撫で始めた。
「晶…やめて…。」
と拒否しながらも、どこか嬉しそうに口角を上げる明人君。
…明人君…もしかして頭を撫でられるの好きなのかな?
始業式の時も智明に撫でられて喜んでたし…だとしたら凄くかわいいなぁ…。
すると、彩さんが晶さんの手を掴み、
「晶ちゃん!私の弟いじめないで!」
と注意した。
いとこだけど弟みたいな存在なんだ…。
明人君大切にされてるんだなぁ…。
「本心は?」
「晶明美味しいからもっとやって。」
「了解!」
…さっき言った事取り消して良いかな。
ショッピングモールに到着すると、晶さんと明人君が楽しそうに早足でゲームセンターに向かって行った。
「ソウルメイト!負けた時の罰ゲームは《超過激な表紙のBL本をアルバイトさんのレジに並んで買う》な!」
「望むところだよ盟友…!」
本当に仲良しだなぁ…罰ゲームの内容はよくわかんないけど…。
「朱里!俺らもゲーセン行くか?」
と、2人の背中をぼーっと見つめていた朱里さんに話しかける智明。
わぁ…サラッと朱里さんのこと誘った…智明は凄いなぁ…。
なんて考えていると、朱里さんが僕ら2人をチラッと見てから
「…うん!レースゲームしよ!負けたら罰ゲームね!」と言い、智明と共にゲームセンターに向かった。
けど、すぐこちらに戻ってきて、朱里さんがこっそり彩さんに絆創膏を手渡した。
……絆創膏?
指でも怪我してるのかな…?
2人の事を交互に見つめながら首を傾げると、朱里さんが少しだけ小さな声でこう聞いてきた。
「…2人はどうするの?」
あ……。
…よ…よし!僕も誘ってみよう…!
「さ…彩さん、僕達もゲームセンターに行ってみる?」
僕と朱里さんを交互に見つめる彩さんにこう尋ねてみると、嬉しそうに微笑み
「うん!私やりたいゲームあるんだ!行こっか!」
と言ってくれた。
ゲームセンターに到着し、リズムゲームのコーナーに居る明人君と晶さんを見てみると、荷物を置きながら楽しそうに会話をしていた。
晶さんもだけど、明人君も見た事ないくらい大きな動作で話しかけてて…あの二人本当に仲良しなんだなぁ……ちょっと羨ましいよ…。
ケラケラと楽しそうに話している2人を見ていると、彩さんが僕の肩をトントンと叩き
「ねえねえ龍馬君、エアホッケーしない?」
と、言いながら遠くの方を指差した。
…エアホッケー…?
エアホッケーってなんだっけ…。
「えあほっけー…?」
と、言葉に出してみてもピンと来ず、首を傾げているとクスクスと笑い、説明してくれた。
「なんて言ったらいいのかな…丸い板を弾き合うやつだよ、相手の手元にある…溝?に落としたらいいやつ!」
と、物凄く丁寧に説明されても微塵も分からず、
「まるいいた…?てもとのみぞ……?」
と、アホ丸出しのようなことを言っていると、またクスクスと笑って
「やったほうが早いか!おいで!」
と、笑顔で僕の手を引いて連れて行ってくれた。
「龍馬君結構強いね…エアホッケー…。」
エアホッケーをプレイし終わり、みんなの元へ向かっていると、彩さんが僕にこう話しかけてくれた。
「ほんと…?あんまり自信なかったんだけど…」
どこに何をどうすればいいのか分からないまま、きゃあきゃあ言いながら打ち返していたらいつの間にか勝ってた…なんて言えるわけないよね。
もしかしたらこれが僕の才能なのかもしれない…。
腕を磨けば世界レベルに行けるかも……。
なんてくだらないことを考えていると、彩さんが優しく微笑みながらこう言ってくれた。
「また今度二人でエアホッケーしに来ようね、次は負けないから!」
「…!うん!また来ようね…!」
…やった!また遊ぼって言ってくれた…!
それも2人でって…!
「こ…今度は智明じゃなくて、僕からみんなを誘うから、待ってて。」
と言うと、僕の顔を見て少し目を見開き、そっと目を逸らしてからこう言った。
「…二人きりの…つもりだったんだけど…」
…えっ…?2人…?
「え…!あ、ごめん…!二人だね、うん!2人で遊ぼ!!」
と、慌てて訂正すると、「うん」と頷いてくれた。
…二人きり…か…。
…そういえば、もう少しでゴールデンウィークだから…よし、その時に誘おうかな。
……誘う勇気があったら、だけど。
…いや、マイナス思考になるのはやめよう。
誘う、絶対に。
誘うんだ松田龍馬!男だろ!よし!!
そう決意した瞬間、胸の中に何か温かい感情が溢れるのを感じた。
……もしかして、これが…なんて。
そんな事を考えながら、彩さんに話しかけようと、彩さんの方へ顔を向けると…
彩さんの耳が真っ赤に染まっていた。
「みんな遅いね…。」
「だね…。」
ゲームセンターの近くでみんなを待っていると、彩さんが僕の肩をトントンと叩き、
「そういえばさ、今日一片の夢見たよね…?」
と、話しかけてくれた。
そっか…あれ彩さんが見せてくれた夢だったんだ…。
「見たよ、でも彩さんは悪夢しか見せられないんじゃなかったっけ?普通に楽しかったんだけど…。」
と言うと、首を振り
「いや、あれは悪夢だよ?だって屋敷から出れないし…一片の世界では誰がいつ死ぬか分からないし…。」
と答えてくれた。
……そっか…そういえば夢では屋敷から外には出てなかったな。
それにラフと話しても全く嬉しくなかった。
嬉しいって感じたのは目が覚めてからだっけ。
…そっか…あれ…悪夢だったんだ…。
すると、彩さんが僕をじっと見つめてから
「…龍馬くんの能力の特徴は…悪夢を怖がらなくなる事なのかな…メモしなきゃ…」
と、独り言を呟きながら、鞄からノートを取り出した。
ノート…?僕の事書き留めてるの…?
なんか恥ずかしいな…ちょっとくすぐったいや…。
なんて事を考えながら、彩さんから目を逸らし、壁に背を預け、ポケットから携帯を取り出す。
智明に「待ってるよ」って送っておかなきゃ…。
一回だけ軽く咳き込んでからメッセージアプリを開き、智明とのトークルームを右手の親指でタップする。
そして、彩さんが黄色いペンケースからボールペンを取り出し、ノートを開いた瞬間、ペンが彩さんの指の間をすり抜け、吸い寄せられるように地面に向かって落ちていく。
しかし、落ちた筈のペンは僕の左手にしっかりと握られていた。
「びっくりした…!龍馬くん反射神経すごいね…!なんかアリスみたいだった!ありがとう!」
驚きお礼を言う彼女に、
僕の反射神経。
さっきまでの僕の行動に、
今手に握られている携帯とペン。
彼女が持っているノートに、
無造作に貼られている付箋。
全てに疑問を抱き、
恐る恐る口から出た言葉は
「…ねえ……僕…さっき…彩さんの方見てなかったよね…?なんで……拾えたの…?」
「…えっ?」
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