第9話 デジャヴ



6人でカラオケに向かっていると、晶さんが独り言のようにこう呟いた。

「…カラオケとか何ヶ月ぶりやろ。」


すると、晶さんの隣の明人君が、そっと顔を覗き込むように、少しだけ背を屈め

「ソウルメイト…もしかして…カラオケあんまり好きじゃなかった…?」

と質問した。

すると、少しだけ首を横に振り、残念そうにこう答えた。

「いや?カラオケはすっごい好きやねんで?でも最近時間が無くて行けてないねん…。」

…晶さんって結構忙しい人なんだ。

そうだよね…今回も晶さんの予定がなかなか合わなくて結構遅めになっちゃったんだもんね…。


するとその時、智明が明人君と晶さんの会話に割り込み

「晶って休みの日とか何してんだ?あんま街で見ねえけど…。」

と、尋ねた。


「休みの日か…大体は家の手伝いしてるよ!手伝ったらめっちゃお小遣い貰えんねん!」

「へー、お前ん家店やってんのか…。」

「うん!みたいな感じやな!」

…へぇ…そうなんだ…。

お小遣いを貰えるって事は結構繁盛してるのかな…?


2人の会話を聞いていると、彩さんが晶さんに

「ねぇねぇ、今度晶ちゃんのお家に遊びに行っていいかな?」

と、話しかけた。

すると便乗したように、朱里さんや明人君、智明も

「行ってみたい!」と言い、晶さんが嬉しそうにニコニコと笑いながら「また今度な!」と答えた。

…迷惑じゃなければ僕も行ってみたいな。


なんて考えていると、晶さんがまたもや嬉しそうに

「…お父さんうちの事大好きやから…うちの友達見た瞬間泣くかもなぁ…。」

と言い、くすくすと恥ずかしそうに笑った。

可愛らしい親御さんだなぁ…。


すると、晶さんが突然声を出してケラケラ笑い出し、

「あはは!そうや!うちの親の泣き顔を見たいならいつでも来ていいよ?大歓迎や!」

と言った。


「あ、私遠慮しとく…」

「俺も」

「ごめん晶ちゃん…」

「晶さんごめん、僕も遠慮しとくよ…。」

「……ソウルメイト、今日は共鳴しなかったね…。」

「………。」





カラオケに到着し、フリータイムでたくさん椅子がある少し広めの部屋を取った。


部屋の中央に白いテーブルがあり、それを囲うように一人がけの黒いソファーがコの字型に並んでいて、ソファーの向かい側に機材や液晶画面があり、画面の前にはマラカスやタンバリンが置いてある。



部屋に入り、智明が明かりを調整して、僕がリモコンを部屋の中心にある机に置く。

すると、朱里さんが入り口から一番近いソファーに座りながら

「智龍モテそうだね…!」

と、言ってくれた。

「そう?へへ……」

朱里さんの言葉に喜んだその時、朱里さんの隣に座ろうとしていた彩さんが、朱里さんの手を引き、


「朱里ちゃんの馬鹿!龍智だって言ってるじゃん!」

と、怒った。

…りゅうとも…?

それに便乗するように朱里さんも彩さんの手を掴み、少し大きな声で

「彩ちゃんの方が大馬鹿でしょ!?絶対智龍!」

と反論し始めた。


「…これが腐女子か…。」

何かを悟ったような目をしてそう呟く、隣の智明。

腐女子は…BL好きの女の子の事か。

…最近の腐女子は僕と智明のコンビでも萌えるんだ…。


…龍智と智龍ってなんだろ、何が違うのかな。

すると、真ん中に座ってた晶さんが何かに気付いたように顔を上げ、いわゆるイケボでこう言った。



「リードするから攻めだと決まったわけじゃないし…支えるから受けだと決まったわけでもない…ゆっくりじっくり考えようや、時間は山ほどあるんや…。」


「……天才か…」


…あれ、なんかデジャヴ。


二人がなんか気持ち悪い感じで仲直りしているのを見ながらマイク2つをリモコンの隣に置くと、智明が

「トップバッターはじゃんけんで決めようぜ!」

と、手をグーにして前に突き出した。


すると朱里さんが便乗し、智明と同じく手を前に突き出し、

「いいね!トップバッターだから歌上手い人の方がいいな…!」

と言った。

…軽くプレッシャーかけないで…。


その二人を見て、彩さんと明人君が少し顔を見合わせ頷き、二人の真似をして、手を突き出した。

…可愛いコンビだな…。


僕と晶さんも手を突き出し、

「じゃあ行くぞー!じゃん!けん!!」


智明の合図に合わせ、チョキを出す。





「じゃんけんってほんまクソ!」

と、パーを出し一発で負けた晶さんが、リモコンを操作しながら文句を言った。

「さーて、晶はどんだけ歌が下手なのか!」

そんな晶さんをからかう智明。

「うっせぇ!!」


下手かどうかは置いておいて…晶さんってどんな歌歌うんだろ…。

ハードロックとか歌ってほしいな…絶対かっこいい…。

なんて考えていると、晶さんが嬉しそうにリモコンを操作しながら

「よっしゃ!見つけた!入れるで!」

と言いながら画面にリモコンを向けた。

すると、ピピピ…と電子音が鳴り、液晶画面に大きく曲名が表示された。

…おぉ…一片の主人公のキャラソンだ…。


そして、晶さんが液晶画面の隣に立ち

「大天使晶ちゃん、歌います…聞いてください。」

と、まるでバラードを歌う前のアーティストのようにこんなことを言い出した。

何言ってんだこの子。


「〜♪ 流れる時代に身を任せ、新の誘惑に胸を染める…はっきり見えていた、貴方はただの夢だと。」


…!

うっま……!!

歌うっっま!!!





「こんなもんかな!龍馬君と智明君前通るでー!」

と言いながらマイクをテーブルに置き、席に戻る晶さん。

「…お前…歌手なれんじゃね……?」

そんな晶さんを険しい顔で見つめ、そう言う智明。

智明の言葉を聞いて、首を振りながら

「またまたご冗談を…。」

と否定する晶さん。



…晶さんすごいなぁ…。

晶さんの歌のインパクトが強すぎてぼーっとしてると、彩さんが明人君の肩をさすり、ニコニコしながら

「よし、次明人見せてやりな!」

と言った。


…明人君も歌上手いのかな…?

と期待し、明人君を見つめると、僕をチラッと見てから俯きこう言った。


「流石に恥ずかしいよ…こんな…大勢の前で……。」

確かに…智明くらいになれば

『俺の歌を聴け!ピッピロピロピー!』

とか言えるんだろうけど…

…ちょっと恥ずかしいよね…。


すると、晶さんが不安そうにキョロキョロと周りを見ている明人君を元気づけるように

「大丈夫やで、みんなソウルメイトがシャイな事分かってるやろ、そんな「歌わなあかん」ってプレッシャー感じる必要無いんやから。」

と、言った。


「大丈夫だよ、それに明人歌上手いし!誰も笑わないよ!」

何回も頷きながら彩さんがそう言うと、明人君がマイクを手に取り

「……頑張ってみる……」

と、リモコンを操作し始めた。



…智明と朱里さん…いつもいっぱいおしゃべりしてるけど…

こういう、人が大切な決意をしようとしてる場面の時は、何も言わずに相槌を打つだけ、っていうの

…ちゃんと空気読めててすごいなぁって思う。


智明のこういうところ、好きだな。

もちろん、朱里さんも。


ピピピ……という電子音がなり、少し咳払いをしてから、明人君がマイクの電源を入れた。



次の瞬間、ベースの重低音が部屋に響き、さっき晶さんが歌ってた曲よりかなりアップテンポな曲が始まった。



「〜♪ 望みの光なんてあるはずなくて、落ちるところまで堕ちたみたい…」


うっま……!!

歌うっっま!!!


デジャヴ。




「……恥ずかしかった……」

と言いながら、マイクを置き、ぐっと俯く明人君。

「…晶と明人でコンビ組んでデビューしてもいいんじゃね…?」

そんな明人君を見ながら、腕を組み、真剣な顔でこう呟く智明。


…確かに、もしこの二人がCD発売したら買っちゃうもん。

身内だから贔屓目で見ちゃう部分もあるけど、この2人ならプロくらい狙えちゃいそう。


すると、女の子二人がリモコンをぴこぴこと操作し、

「明くん次この曲歌って!」

「デュエットデュエット!」

と言いながらマイクを二人に手渡した。


すると、少し戸惑い、晶さんの側に寄り話しかける明人君。

「…ソウルメイト、僕このラップパート恥ずかしいから歌えない。」

「じゃあそこうちが歌おか?」

「……ほんと?ありがと……」


…明人君、素敵な女の子見つかったみたいでよかった。

すごくお似合いだ。



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