第11話 怖いなぁ



丁度良いタイミングで、ゲームをしていた4人が僕たちの所に集まり、これから晶さんの罰ゲームの為に本屋さんに行くことになった。

…本当…晶さんって運がない子だな…。

まぁ、ゲームの場合は運じゃなくて実力の差だろうけど…。


…でも、

「罰ゲームってほんまクソ!!」

なんて言いながら怒っている晶さんを

「腐女子の本気見せちゃえ…!」と、楽しそうにからかってる明人君を見てたら…その…晶さんには申し訳ないけど…明人君が負けなくてよかったって思っちゃうな…。

ただの想像だけど、晶さんが勝ったらきっと一生それをネタにしてきそうだし…。



…そういえば…。

「朱里さんと智明の罰ゲームは何だったの?」

「デコピンだぞ。」

「痛かった。」

「へ…へぇ……。」

…平和だな…。








本屋さんに到着し、みんなが晶さんについていく形でBLコーナーを見に行った時

「おい、龍。」

突然智明が僕の肩を抱き、小さな声で話しかけて来た。

智明が僕にヒソヒソ話…?珍しいな、何があったんだろう。


「…お前…彩ちゃんのこと好きだろ。」

「うへ!!!???何言ってるの智明!!!!!!」

智明の口から思いもよらない言葉が出た驚きでつい大声が出てしまった。

すると、智明が僕の頭を軽く叩き、キョロキョロとあたりを見渡してから

「馬鹿、声デケェよ…で、彩ちゃんの事…好きなのか?」

と、またもや同じ質問をして来た。


そんな「彩ちゃんのこと好きか?」なんて突然言われても…。

「…最近会ったばっかりだから…そんな事考えられないよ…。」

と答えると、真剣な顔でこんな事を言い出した。


「会ったばっかだから分かんねえだと!?」

「智明も声おっきいよ」

「だってよ!そんな事言ってると運命の相手逃しちまうだろうが!もし彩ちゃんが龍の事好きで、一週間以内に告白しなきゃ転校しちまうとかそんな状況だったらどーすんだよ!!」



……智明…ラブコメの読みすぎ…。

…でも…もしそうだったら…どうしよう…。

………彩さんに想いを伝えなきゃ…会えなくなってしまうとしたら…。

……僕は…。



「もう一回聞くぞ、好きなのか。」


僕に視線を合わせる為か、少しだけ背を屈め、いつもより低い声で真剣に聞いてくる智明。

その智明の顔を見てから覚悟を決め、小さな声で決意を口にした。


「……うん、好きだよ…彩さんの事。」


智明の目をしっかりと見てそう答えると、智明が少しだけ目を見開いてから

「そうかそうか…これで龍を思う存分いじれるな!松田彩ちゃん!」

と言いながら僕の背中を軽く何回も叩いた。

…本当、少しでも信頼しようって思った僕が馬鹿だった。



その時、いつの間にか近くにいた、レジ袋を持った晶さんが


「…やべ…ヤーさんがおる…隠して…超怖い…。」

と小さな声で呟き、智明の背に隠れた。


やーさん…?

店内を見回すと、胸元を開けたいかついお兄さんたちが少年誌を見ていた。

…あぁ、あの人達か…。


「…多分こっちには来ねえだろ…なんかヤクザにトラウマでもあんのか?」

と、自分の背後にいる晶さんに話しかける智明。

すると、晶さんが少しだけ顔を出し、恥ずかしそうに話し始めた。


「…ちっちゃい頃な、ヤーさんの集団に「おっちゃんら怖いな!ちっちゃい子泣くで!」って言ったらめっちゃくちゃ怒られてん…それからトラウマ…。」


…それ完璧晶さんが悪いよね。

いくらあの人達でもそう言われたら傷つくよね。

それ完璧晶さんが悪いよね。



晶さんの話を聞いていたその時、視界の隅で、いかついお兄さん達が僕達のいる漫画コーナーに向かって来ている事に気付いた。

…あの人達も漫画とか読むんだ…まぁ、好みは人それぞれだしね。

「晶さん…お兄さんたちこっち来た、離れたほうがいいかも…。」

と伝えると

「わかった、ありがとうな…!」

晶さんが僕にお礼を言ってから、店の奥の方にあるカフェに向かって早足で歩いて行った。



…あんなに怖がるって事は…。

もしかして、晶さんが言ってたあの言葉は冗談で…本当はもっと大変な思いをしたのかな。


あのお兄さんたちから乱暴されたりしたのかな…?

…だとしたら、許せないな。



と思いながら、少し乱れていた漫画を綺麗に並べ替えていると胸元の開いた服を着た、ガタイの良いいかついお兄さんが僕に向かって話しかけてきた。


「おい兄ちゃん、小説のコーナーってどこにあるんや」


ヒェッ………怖い…。

まさか…整理してたから店員さんだと思われたのかな…?

智明も居ないし…あのチキン男め…逃げやがって!

仕方ない…怖いけど僕の力でなんとかしよう…。


いかついお兄さんに、恐る恐る

「あの…僕、店員さんじゃないんですけど……。」

と言うと、舐めるように僕の顔と服を見始めた。

あぁ怖い…めっちゃ怖い…。

「紛らわしいことすんなや!」とか言われるのかな…。

怖い、たすけて…誰か…。


「…兄ちゃん…。」

「は…はい……」

智明、明人君、彩さん、晶さん、朱里さん。

お父さん、お母さん、よくお菓子をくれた叔父さん。

今までありがとう。


「すまんな…整理しとったから店員さんやと思ったわ…堪忍な!」

…あれ…思ったより優しい…良かった……。

「いえ…あの、小説のコーナーは多分あそこだと思いますよ…。」


と、恐る恐る、小説のコーナーを指差すと、指差した方を見てから、また笑顔でこう言ってくれた。

「そうか、ありがとうな!兄ちゃんここの店員向いとるんちゃうか?」

「えへへ…そ…そうですかね…?」


…なんか、この人が悪い人だとは思えないな…。

まぁ、悪い人なんだろうけど…僕がイメージしてる人たちとはちょっと違うかも…。


なんて考えていると

「じゃあ小説見てくるわ、兄ちゃん堪忍な!」

僕の頭をわしわしと撫でてから、小説のコーナーに向かって行った。

そのお兄さんの背を見ながら、


「…みんなあの人みたいに優しかったらいいのに。」

と独り言を呟く。

……なんか…あの人誰かに似てるんだよなぁ…。

誰に似てるんだろ…。


……ま、いっか。






帰り道。




カラオケに行った後ゲームセンターに行って次は本屋さんに…と、久しぶりに休日を友達と満喫した後、晶さんと偶然帰る方向が一緒だったから、途中まで一緒に帰る事になった。


横からだと前髪と長いもみあげが邪魔であまり顔が見えないけど…晶さんって本当に美人さんだなぁ…。

智明が言ってた通り、性別関係なくモテそうだ。


今日一日で気付いたけど、晶さんはカラオケに行く道では自然と車道側に立っていたし、お話をする時もしっかりとみんなの目を見て話を聞いていた。


男の僕でも尊敬するくらい紳士だし…でも完璧じゃなくて…本当誰からもモテそうだなぁ…。


それに…


「なぁ。」

今日1日の晶さんの行動を振り返っていると、晶さんの方から話しかけてくれた。


「?ど…どうしたの?」

少し首を傾げながら尋ねると、優しく微笑みながら

「明人さ、龍馬君と知り合えたことすっごい喜んでたよ、もし良かったらさ…今よりももっと仲良くしたげて。」

と言った。


…あぁ、こりゃあモテるな。


「勿論!今度遊びに誘おうかなって思ったんだけど…いいかな?」

と尋ねると、笑顔で「ええやん!」と言ってくれた。

…晶さんって、周りの人のことちゃんと見てるんだなぁ。


「あ、でもうちが「仲良くなれて喜んでた」って言った事明人には内緒な?明人恥ずかしがるやろうから…。」

ほら、やっぱり完璧だ…。

「ふふ、分かった!」


僕も晶さんに弟子入りすれば今より少しはモテるのかな…。

なんて考えながら晶さんから目を逸らし、自分の足を見ながら歩いていると…

「そういえばさ…」

また話しかけてくれた。


「うち、龍馬君の事は遠くから見てるだけやったけど…思ったより明るくてびっくりしたんよ。」

思ったよりも明るくて…?

僕の第一印象って暗いのかな…。


「ごめん、なんか…話しかけ辛かったかな?」

と、少し首を傾げて尋ねると、首を横に振って否定し、焦りながら話し始めた。


「ちゃうって!ただ…あんまり人と喋ってるイメージ無かったから、もっとクールな人なんかなって思ってたんよ。」

「くーる…?僕が?」

また首を傾げ尋ねると、頷き楽しそうに


「うん!やけど話してみたら結構明るいしアホやし…正直びっくりした…!」

と、言ってくれた。

アホは余計だけど。


「なら良かった…僕も晶さんはすっごく大人しくてクールな人だと思ってたからびっくりしたよ…!」


晶さんを見て、少し微笑みながら言うと、少し目を見開いてから

「えぇー?何言うてんの?今でもクールやろ?」

と、カラオケの時と同じようにイケボで言った。


「そうですねー、はいはい」

「おい流すな!」



…晶さんは楽しい人だな。

隣で少しニヤニヤしながら歩いていると

「あ、せや龍馬君!もう一個言いたいことがあるねん!」

僕の肩を叩いてから、その場に立ち止まり、ゆっくりと話し始めた。











「能力を持ってんのはお前だけやと思うなよ?」


さっきまで話していた人とはまるで別人のように、冷たい目で僕をじっと見つめる晶さん。


「え……なんで…能力の事を……?」


その場に固まり、少し震えた声で話しかけると


「それはこっちのセリフやっつーの…いっちょまえに目光らせよって…にわかのくせに。」

と、後頭部をワシワシと掻きながら低い声で呟き始めた。


…そっか、晶さん…僕が目光らせた時、彩さんの隣にいたんだ。


「…彩ちゃんとの出会いに運命感じとんのか知らんけどな…お前と会わんかったら、彩ちゃんは絶対こっちを選んどるんや…これがどういう意味か分かるか?」


僕の方に歩み寄りながら、さっきよりもさらに低い声で話す晶さん。


気付いたら僕の目の前に立ち、僕の右肩をポン…と優しく叩いてから



「龍馬、もう能力使うな。」


と、彼女が口にした途端、彼女の瞳があの怪物のように黄色く光った。



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