第2話 根本的な成長

「成長してるの?」


 ただいま退化しつつある感じがするので女神のご意見をお聞きしたいです。


「なによ」


 性的なことです。


「いやらしいこと?」


 そそそうです。


「あら、わたし前に言わなかったかしら」


 ?


「わたし、性に奔放よ」


 つまり、女神はオープンスケベ?


「そう、実はそう」


 いろいろ楽そうでいいですね。


「堅苦しいのはもういいよ。なに?」


 え、女神がそういう方だと知ったのでもう安心したっていうか。


「なに?」


 女神には自然なことなんですね?


「そうよ。なに?」


 恥ずかしいから嫌。


「顔文字で」


(〃ノωノ)


「そうかー。でもね、当たり前のことだし。今も性的な興奮を覚えるの?」


 排卵日と月経の前にムラムラッときます。


「ほう! で? なに?」


 学生の時に女の子がそういう話をしていて、なんてはしたない! って嫌悪してました。


「もちろん、そういう人もいる。でも実はしないですむ話じゃないから。もちろん、妄想ではあるわ」


 わたくし、異性のことを想像したことないのです。


「これっぽっちも?」


 胸に抱かれる妄想くらいはしたことありますけど。


「それは……いい兆候」


 女神が小さくなってからというもの、そういうこともなくなって、すきっと坊様みたいに澄み切っている。


「それはアブナイ」


 え、なんで?


「犯罪予備軍」


 なぜー???


「どこまで妄想するの?」


 え? ですから、異性の胸を。


「正直に言って」


 顔も腕も下半身もついてない、トルソを思い浮かべました。


「なにー??? トルソ? って?」


 彫像ですね。


「ああ、いいな。それはいいよ」


 あったかくて、安心できて、でも、それっきり。わたくしって想像力欠如なんでしょうか?


「あたりまえだよ。純?」


 純ってこともないです。ただ、無知かな。


「おいおい;」


 でもなあ、経験だけ豊富でも仕方がないと思っているのでわたくしはこれでいいです。


「おいー;」


 少し悔しいのは、女神みたいなひとを理解できないことですね。


「気持ちをあげること。同性は普通に会話するのに、異性とはがっぷりよっつになるの?」


 接触無しです。


「おおおい!」


 カクヨムとツイッターではお話したことあります。


「よかった; 数に入れてる」


 数に入れないとまずいんでしょうか?


「まずいよ! あんた、正常じゃない!」


 正常ってなんですか?


「やっぱり……汚いと思ってるんでしょ」


 スキンシップは好きですが。


「お願いだから、ちゃんとセックスして!」


 誰でもってわけじゃないので。


「OK.目をつむろう」


 女神は誰でもいいんですか?


「もちろん! セックスできるなら」


 リアクションに困りますな。わたくしは好きになった人でないと嫌です。避妊もきっちりしてくれないと嫌です。だからと言って、セックスのためだけに生きるのも、ピルを使用するのも嫌です。


「えー???」


 他にもいろいろ考えることがあるでしょう?


「ないよ!」


 女神、おげれつ。


「なによ! 女神に対して!」


 女神はセックスしてるんですか?


「してるわよ? もちろん」


 じゃあ、あなたはそれでいいじゃないですか、人のことをとやかく言わずとも、納得してるんでしょう?


「おーまーえー!」


 違うんですか?


「違わない」


 ただ、ひとりでいるとき、隣に好きな人がいたらいいなって思うんですけれどね。


「あら。お稚児ちゃん」


 んー、猫といっしょに戯れるんでも全然いいんですけれども。


「そこまで⁉」


 異常なのかなあ。


「全然考えられない」


 女神はなんでセックスできるんですか?


「生の本能」


 本能はわたくしも強いです。食い意地張ってると思う。


「それで?」


 風にあたるのも好きだし、空を眺めるのも好きだし、花を見るのも好き。大好き!


「合格!」


 うん?


「それでいいの! 生き延びられるわ!」


 わたくし、これでいいのでしょうか?


「もちろん! プロットに書いて! 性欲なんかなくっても、好きなことに生きられる、って」


 いいのか。よかった。最近ちょっとセンシティブな話を見聞きして、ナイーブになってたんです。


「汚い話するから、大丈夫」


 ポイズン?


「吐け!」


 おろろろー。


「ゲロじゃない。何を隠している?」


 妻子ある人を好きになった。


「およ?」


 実際にあわないし性欲がないから、接触嫌悪もなくて清らかなんだけど。


「あー、だめだぁ」


 精神的に満たされてれば、文句もない。


「あーあー、異常者」


 なんで!?!? いいって言ったじゃん!


「情けなかとぉ……」


 え? 生きていればいいんじゃないの?


「ただ生きてどうする!?」


 だめなの?


「だめ」


 創作に生きればいいじゃん。


「創作のもとは、精神的な苦痛なの。苦痛を与えようか?」


 苦痛が創作のもと? そんなの初めて聞きましたよ?


「情けないなあ!」


 わたくし、お読みくださる方が苦痛でなく、快感を覚えるような文章表現をしたくって。


「それならいいか」


 ただ、フィン感では「内容が頭に入らない」って言われて困ってるんですけれどね。


「あ、そうか」


 何か?


「欠損を書け」


 そんなの、かわいそうで書けないです。


「欠損児童」


 御気の毒で書けないです。


「暇だなあ……」


 そうだ、母に聞いてみます!


「ああ、そうしろ」


 浦島太郎とか、貧乏な老夫婦の話が好きだそうです。


「あらそう」


 自分も貧乏だったからだそうです。『アニー』とか『アンという名の少女』とか、孤児が主人公の話が好きで。時代は貧乏、でしょうか。


「それはない」


 じゃあ、セレブ?


「セレブじゃないし。中産階級でもいいよ。欠落があれば」


 ああ! 主人公には欠落した何かがあって、という物語の造りのお話ですか。


「そういう意味だよ」


 てっきり、五体不満足な方のお話を書けと言われたのかと思い……。


「そんなわけないでしょう」


 御気の毒だし、書けないわ。


「それで十分、書けるじゃない。お作法間違ってる?」


 ! ピンときた。お話が書けない小説家の話が書けるわ!


「わたしもそれいいと思った」


 学校のスーパースターが実は、両親と離れて暮らしてる、とか。


「へんね。明らかにへんよ」


 両親は亡くなっているか海外にいる。


「へんへん」


 どこかで聞いたような。


「うん。実は、でもなんでもない。踏襲」


 じゃあだめだ。WEB作家が書籍化作家を目指すお話。


「いいねえ。自分で書いたら?」


 本気で思い詰めて作家を目指してたのはまだ学生の頃なんですー。


「もちろん、それから世界が変質し」


 周り中ライバルで、気を張る毎日。


「うん、そして?」


 あるときいきなり始まるいじめの予感。


「説得力あるわよ。物語の結末は俺が決める、とか言ったらごめんだけど」


 でも、中退したら自費出版の話がきて、あれよという間に親に原稿をとられて。


「余計なこと書かなくていいわ」


 じゃあ、中退して田舎にひっこんだら周りはおじいさんおばあさんばっかりで、とか。


「ああ、うん。大体わかった。老人ホームの話ね」


 違ううう;; 主人公はどこへ行っても最年少扱いで感覚がおかしくなる。


「うん、それで?」


 いつまでも若い気でいるから、努力もしなくなる。


「それから?」


 書籍化は夢のまた夢だけど、書き続けている。


「そんなとき?」


 ふと気づくと、読者の顔が見えてない。


「それだけ?」


 貧乏な暮らしを体験したことがないのに、書かなくてはならない気配濃厚!


「そして?」


 想像してみて、おびえる。


「だめだめ。そういうのはやらない」


 実際に貧乏暮らしをすべきでしょうね。


「今からでは間に合わないから、学生のときのへんな暮らしぶりを書こうとするも失敗」


 へんすぎてw


「そうだよ? 慰めにもならないことを書き続ける毎日」


 でも、まだ希望は捨てちゃいない。

 窓から見える景色もこんなに綺麗、終わり。


「そんな感じ。陶酔はしない方向で」


 えええ? これ、話になってます?


「なってます」


 じゃあプロットに起こそうかな。


「そうして」


 結局お悩み相談に乗ってもらってしまって……。


「誇りに思う」


 がんばりますね! ありがとうございます、女神!


「いいのよ。学生時代のへんさ加減を心待ちにしてるわ」


 わたくし、そんなにへんでした?


「へんじゃないの?」


 生き急いでましたね。


「そういうとこ! 前に出して」


 毎日急な坂道を駆け上って遅刻寸前。


「ありがとう。ネタをくれて」


 でも、その後のギャルゲーなどに頻出するパターンなので、(〃ノωノ)の。


「どっかーん。目障りなやつと対決! とかは?」


 特別にはなかった気がするな。


「上品。ぶってない?」


 ぶってない。


「そうか、そっか。アニメーションは?」


 部活動で毎日遅くまで練習していて、あまり。でも有名どころは友達づてで知っていた。


「なるほど。もう、大変だったんだから! っていうできごとは?」


 うん? 文化祭の取り決めのとき、わたくし以外に教室に残る人がいなくて委員の人が同じグループだったからわたくし一人で資料を集めて企画書をまとめた。


「会社みたいな」


 で、委員の子は「みんなが残ってくれるのは当然のこと」って言うから、この子は人望がないんだ、と思った。企画は図書部の読書会に参加したときのつてで、先生に協力してもらってまとめあげたの。好評だったよ。


「なんで、その子はおまえにお礼をいわないの?」


 文化祭はみんなが居残るのが当たり前っていう感覚だから。


「おまえ、人使い荒いねえ、とかは?」


 全然思わない。わたくしは部活の方が大変なんで、手の空いてるときを見計らって手伝ったまで。全然自分事じゃない。協力はしたけれど、当日はほとんど参加できないのわかってたし。


「いじわるなひとがいたでしょう。しっかりやってよ! とか全員おまえをターゲットに責任感が強いの知ってて」


 でも当然部活の方が大切だし、断りました。はっきりと事情を話して。


「んー、だめだな。話を盛ろう」


 どういう風に?


「説明しておこう。マジ時間がない。のんびりしてられないのに、委員になった子が帰宅部で感覚合わない」


 でも、友達だから。


「それがわからないのよね……」


 友人づきあいは義理ですよ。


「そっか! 義理堅いのか」


 ぜんぶ、義理。


「プロットに書いといて。義理堅い、って」


 中学生の時はじじむさいので有名な、アニメのキャラに似ていると言われ、おまえの中には老人と子供がいるが中間はない、と言われた。


「中間どころか、愚か者。自殺するくらいに痛いやつじゃない?」


 教科書読みながら登校してました! 時間がないから。


「つきやぶれ! ガラガラガラ‼ コンピューターのようになっちゃダメ」


 同じ教室に生徒会長がいたけれども、嫌な相手で、でも義理で仕事をお手伝いしていた。おかげで友だちと遊ぶ約束がぱあに。


「それ書いてよ」


 そうか……。困ったことや嫌だったことを書けばいいのか。


「そりゃそうよ。今までなんのために耐えてるの? 大切にしたいからでしょ。はい、書いて」


 なんだか中学生の時、周囲の女の子がおばさん臭く感じた。


「おばさんだもの。中学生って」


 ガラガラガラ!


「ふざけんな。年をとってるからおばさん臭いのよ?」


 主人公何歳くらいにしますか?


「宇宙人にしよう!」


 適当なことを!


「だって、自分だけ童顔で、言うことは大人の受け売りで、そんなのへんじゃない」


 四字熟語とかことわざとかが好きだっただけです。受け売りなんか。……父の受け売りしたなあ。


「よく覚えてるじゃない。人気だったんですか?」


 裏番的扱いで、いいように使いまわされた気がする。


「それとこれとは違うんだよね」


 勉強は短期集中型で、一夜漬けもよくした。


「頭の中、コンピューター」


 いや、ゲームも好きだったから。


「あーのーなー。楽しかった?」


 毎日が充実してました!


「そんなぁ……破滅じゃないの?」


 周囲がどれだけ破滅しようと、自分は生き残るつもりで頑張ってました!


「あれれ。サバイバー」


 だから、その頃は作家になんてなる気はなくて、漫画家になる気でいたの。でも絵は我流だし、物語が作れないからどこかで勉強したいなって思ってて。


「つまり?」


 勉強の延長線上に美大と専門学校があり、自費出版があり、公募活動があるわけです。


「そんな……大正解よ。興味があるし、しっかりしようよ。その辺もう一回繰り返して」


 えとですね、中学の最後の方ではうっすらと女神の声が聞こえてました!


「やばぁ」


 本屋に入って、偶然手に取ったのが公募ガイドでした。


「それって、偶然なんだ?」


 いえ、実は声が聞こえて。いつもは踏み入らない領域に踏みこんだら見知らぬ雑誌の中にそれがあって、手に取ったら「買え」と声が聞こえた。


「呼んだんだ……なにかが、まるでお助けのように」


 はい、ですからなんの疑問も持たずに女神を信仰しているわけです。助けてくださったわけだから。


「売れる! 絶対売れるよ。それ書け」


 声のことは書きたくないんです。妄想だと一笑にふされるだろうから。


「おまえは上品。続き読もう」


 上品ばかりでもないです。その頃すでに「同人誌」を読んでましたから。


「なに? なにそれ」


 主に漫画だったかな。即売会とかに行ってて。周囲に同人誌を作ってる子たちがいて、その手伝いをやってて。


「暇がないのに、一番働いて、ろくでもない結果だ」


 子供でしたから、友達の原稿を本にするために、母に借金しまして、初のバイト代はそのときの返済に使いました。


「ざけんな。同人グッズ」


 でもね、後で知ったんですよ。印刷業界は過労死ナンバーワンだって。震えますよ。知らなくてね。申し訳なかった。顔も出さずに注文だけして、知らんぷりしてまだかなあ、なんて待ってただけ。逆に母が仕事の合間に印刷所に足を運んで印刷屋さんをピシピシ鞭打っていた。3万円は中学生には大金だけれど、それっぽっちで命を削る印刷屋さんは苦しかったろうに。


「ごめんね。明るい話がしたい」


 同人誌を作っていた子たちはみんな美術部で、らんま1/2が大好きで、一回だけサザンアイズのビデオを家で一緒に観ました。でもレンタル料金を誰も払ってくれないのでそれっきりにしました。五人もいて、たった300円を割り勘してくれないんですから。そんなの月に何度もあったら、お小遣いがもたない。月々1,500円ですよ? 好きな月刊、週刊雑誌を買ったら何も残らないの。映画だって親に頭を下げて年一回程度、観させてもらってた。たかられたらひとたまりもない。みんなはなぜかわたくしには遠慮がないの。同じ中学生なのにね。


「恵んであげてもいいけど、みたいな態度とったんじゃないの?」


 とんでもないですよ。個人的お付き合いはなかったし、義理だけで。


「その時から義理堅いの」


 お義理でお金を振りまくんだから、孤独な老人みたいだって思います。でも、残った友達は一人だけだった。後はみんな高校でばらばら。寂しい限りです。


「ふんだ。一人残ったんだ」


 大学を卒業してから、また逢って遊びに行きましたね。遊んでくれてありがとうって、牛丼おごって。


「もっといいものあげなよ」


 彼女、優柔不断でなににするかなかなか決めないから牛丼でいいでしょって。


「いじめに遭うわよ」


 彼女はわたくしになんにも言わないし、お互い様でしょう。


「今まで何人とつき合ったの?」


 女友達? さあ。全部義理ですし。


「またまた、今更全部浮気なの?」


 同性の友達に貸し借りでつながる習慣がないんですよ。


「全部義理! ちょっとホッ」


 最後の一人だって、わたくしのこと「便利」って言ってたし、おあいこですよ。情も金もからまないの。


「お酒とか飲み行かない?」


 行きませんね。


「合コン」


 一度もないです。


「ふざけるな! 友情崩壊‼ ってならない?」


 本や音楽の貸し借りはしてたけど、浅い付き合いですよ。


「それでいいのかしら」


 ですから、たまにはエロ話でもしたほうがいいのかなと女神に相談したくって。


「もちろんよ? それは必須なんだよ?」


 好きな異性の話とか、席替えで離れるのがイヤとか、交換ノートに書いてましたね、彼女ら。興味深かったですよ。わたくし外野だったけど。


「つまんねー」


 わたくしは楽しかったです。小学生の時からですからね。下手すると園児の頃からの付き合いで、今更気取ることない。


「あ、なんだ。幼馴染だったのか」


 はい。


「友達工夫したら」


 モブにするんですか?


「そう」


 主人公は女子?


「あたりまえ」


 思えば色気もなにもない脳筋だったわ。


「さすがに、対応に困るわ」


 周り中が天使と天才に見えてたので、自分もいずれかどれかかなと思ってた。


「それはね、白血病みたいな人が言うことよ」


 はー? なぜー?


「見苦しかったのね」


 断っておきますが、今でも見苦しいです。


「垢臭い」


 泥臭い、じゃなくて?


「垢」


 じゃあ、なんで女神は助けてくれるんでしょうか。


「もったいないことに、純粋だから」


 なにがもったいないの?


「純粋すぎる、赤ん坊のようだから」


 心が綺麗なのが取柄です!


「残念ながら、もう一度他人の目になって、遅れましたって言って」


 おっしゃる意味がわかりません!


「園児かぁ」


 垢って時代劇でしか聞いたことがない。バイタって意味でしょ?


「んーだ、わかったの?」


 わたくし売春なんてしませんし、したことないですし。


「きかんぼう。病気じゃないの?」


 女神の声が聞こえてる時点で病気決定ですってば。


「やびへびよ……」


 では、またの機会にお会いしましょう。もう、寝ないと叱られます。


「じゃーね」


 またです! ありがとうございました!!!


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