桜ヶ丘女学園にさよなら②

再び動かなくなったうめねこを確認すると、私は慌ててちーちゃんと合流した。気持ちが急いて、そのままちーちゃんの手を握ると早足で歩き出す。


現実へ戻る扉とやらを探す間、ちーちゃんは何も言わずにいてくれた。見たら分かるという、うめねこの言葉を信じて念入りに桜の木達を注視していく。しばらく探してもそれらしいものはなく、観念してうめねこに聞こうとしていたところ、


「あっ……!七瀬ちゃん、あれ、そうじゃないかな?」


そう言ってちーちゃんが指さす先には、一つだけ様子の違う木があった。根元の部分に、花びらがカーテンのように張り付いている。近づいていって見ると、遠くからでは分からなかったけど私達の背丈ほどあった。


「これ、桜じゃなくて、梅の花だね」


ちーちゃんの言葉を聞いて改めて花びらを見てみると、確かに他の桜とは少し形が違っていた。梅の花……。そういえば、うめねこの「うめ」って……。


「もしかして……」


つぶやいて、花びらをそっと手で払ってみると、急にまばゆい光があふれ出した。一瞬目を背けて、改めて見てみると花びらが包まれていた部分全てが光に変わっていた。


私が手を伸ばそうとすると、ちーちゃんは私の制服の裾をきゅっと掴む。


「……まだ、行かないで」


俯いているからどんな表情をしているか分からない。けど、手が震えていた。


「ギリギリまでいるから……まだいるから大丈夫だよ」


華奢な身体をぎゅっと抱きしめる。


「私、ずっとちーちゃんのこと幸せにしたいって思っていたんだけど……私の方が幸せにしてもらっちゃったね」


「そんなことない……私の方がたくさん幸せにしてもらったよ」


私を抱きしめ返すちーちゃんの腕に力がこもる。そうしてしばらく抱きしめ合っていると、二人同時に離れて、お互い見つめ合った。ほんの一瞬だけ唇が触れ合って、同じように照れる。


時が進むのが、遅くなれば良いのに。そんなことを思っていると、ちーちゃんが何かを言いかける。


「七瀬ちゃん……私もね、実は――」


その瞬間、胸ポケットに入っていたはずのキーホルダーが地面に落ちた。拾おうとして掴むと、強い力で光の方へ引っ張られる。


「あっ……」


「七瀬ちゃん……!」


光に入り込むと、聞こえていたちーちゃんの声がぷつっと途切れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る