再会
ベッドに寝転んでも、ちーちゃんとの思い出ばかりが頭に浮かぶ。そういえば……結局、あの絆創膏の相手は誰だったんだろう。もうちーちゃんにすら会えないかもしれないのに、何かひっかかるものがあった。
気分転換に外でも出ようかと、中学生の頃から愛用しているジャージに身を包む。近所を歩くぐらいなら、これで十分だ。
四月の昼間は丁度良い暖かさで、周りに人が見当たらないのをいいことに、歩きながら盛大に伸びをする。そのままぼんやりと公園沿いを歩いていると、角を曲がったあたりで誰かにぶつかってしまった。
「すみません……!」
「ご、ごめんなさいっ」
謝る声が重なる。二人とも、地面に尻餅をついていた。そして私は、目の前にいる女の子を見て固まってしまう。女の子は自身の持っていたりんごが袋からこぼれ落ちているのにも構わず、立ち上がると私に手を差し伸べた。
「お怪我はないですか?」
心配そうに尋ねる声。その声は、やっぱり聞き覚えのある……忘れることのない声だった。
「あ、ありがとうございます、大丈夫です……」
そう言って、躊躇いながら彼女の手に自分の手を重ねる。立ち上がると、改めて真正面から見つめた。リボンがあしらわれたつばの広い帽子から、鎖骨あたりまで伸びた髪。現実なのに、どこか浮世離れした雰囲気があった。ゲームの中にいた、あの時の様子とは少し違っているけど間違いない。ちーちゃんだ。
「あ、あの……私の顔に、何かついてますか……?」
「ちーちゃん、ですか?」
もどかしくて、彼女の問いに答えず先に尋ねてしまう。私が「ちーちゃん」と口にした瞬間、彼女ははっとした表情をする。
「あれは……夢じゃなかったの……?」
そう小さくつぶやくと、緊張した面持ちで私を見て言った。
「七瀬ちゃん、ですか……?」
その言葉を聞いた瞬間、私は飛びつかんばかりの勢いでちーちゃんに抱きついた。聞き間違いだったらどうしようなんて考える隙もないぐらい、私の頭の中は既にちーちゃん一色だった。
しばらくして控えめに私の腰へ回された手。その手で確信を持った途端、名前を呼ばれた時より何倍もの嬉しさが駆け巡った。
一旦身体を離すと、真剣な表情で片手を差し出しながら告げる。
「相川千尋さん、私と付き合ってください。あなたを絶対、幸せにします」
「……よろしくお願いします」
言葉と共に、差しだした手を両手で優しく包まれた。それと同時に、涙があふれ出る。ずっとせき止めていた感情がほとばしるように。
涙で視界が歪みながらも、ちーちゃんをまっすぐ見つめる。すると、ちーちゃんの瞳からも涙が溢れていた。綺麗な雫が頬を伝って……でも、その表情は幸せそうで、晴れやかだった。
ふと、私の脳裏に幼い頃の記憶がフラッシュバックする。そういえば昔、似たような光景を、私は見たことがある。その時、その子はとても寂しそうで、悲しそうで。怪我をしているのだと気づくと、私はすぐに絆創膏を用意して……。
はっとして目の前にいるちーちゃんを見つめると、ちーちゃんは笑顔で言った。
「七瀬ちゃんとまた出会えることができて……私、とっても嬉しいよ」
その言葉には、二つの意味が含まれている気がした。
「私も」
笑顔を返すと、空いていたもう片方の手をちーちゃんの手に添える。そうすることでやっと、手を伸ばしても届かない存在だったちーちゃんと繋がれた気がした。
また二人で、思い出を重ねていこう。
桜の花びらが、まるで祝福するように私達の周りをひとひら舞った。
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