別れの季節

近づくとき

相川家で和やかなお正月を過ごし、ちーちゃんとの仲も良好。順風満帆な冬休みを過ごした私。しかし、その時はもう近づいていた。




ちょっとしたパーティー会場のような広々とした空間に、私とちーちゃんを含め、姫乃と那月、早貴と志歩、結佳ちゃんと海谷先生が並んでいる。ここは姫乃の家の一室で、姫乃自身からバレンタインパーティーに来ないかと誘われたのだ。


長テーブルにおしゃれなテーブルクロスが敷かれ、大皿に盛られたフルーツや食材がひしめきあっている。その中央には大型のチョコレートファウンテンがあり、チョコレートの甘い香りが辺り一帯に漂っていた。瞳をキラキラと輝かせたちーちゃんと結佳ちゃんが興味津々に近づいていく。


「すごーい!おいしそう!」


今にも飛びつきそうな二人に、姫乃が微笑みながら言う。


「どうぞ、好きなだけ食べてちょうだい」


姫乃のその言葉を合図に、ちーちゃん達以外のみんなもぞろぞろとテーブルに近づいていく。もちろん私も。


一口サイズに切られたバナナをフォークでとり、チョコレートの山に突っ込むと、あっという間にチョコレート色に染まる。それを一口頬張ると、バナナとチョコレートの甘みが絶妙なバランスで口内に広がった。簡潔に言えば、とてもおいしい。


ちーちゃんはと見てみれば、それはもう美味しそうにチョコフォンデュを堪能していた。隣の結佳ちゃんもだ。二人とも甘いものには目がないらしい。海谷先生は一つ一つをじっくりと、無駄に妖艶な食べ方をしていた。姫乃と那月はお互いに食べさせ合っていて、相変わらずお熱い。志歩達は、志歩が早貴のためにチョコをつけた食材をひたすら用意して手渡していた。


みんなそれぞれだなぁ……と思いながらも、まるで機械のように、胃にチョコ付きフルーツを流し込む。

これだけ食べたら、ちーちゃんからもらうチョコが食べられなってしまうかもしれない……などと心配していると、ふとちーちゃんと目が合う。ちーちゃんは、そのまま私の元まで来るとそっと耳打ちした。


「明日あげるから、七瀬ちゃんの食べたいものたくさん食べてね」


私が驚いていると、ちーちゃんはにこっと微笑んで元いた場所へ戻っていった。


えっ……以心伝心?私が考えていたこと分かったのかな?タイミングが合いすぎて、思わずそんなことを考えてしまう。浮かれた気持ちのまま何も考えずにばくばくと食べ始めた私のお腹は、どんどん膨れていった。


お腹がいっぱいになって一息つくと、ゲームをしていたときのようにみんなを俯瞰で見る。最初はゲームの登場人物として見えていたのに、ちーちゃんとは恋人になり、他のみんなは仲間だと思うまでになった。相模さんという友達もできた。相川家での生活も、もう一つの家族ができたみたいで温かかった。


この世界に来てから、本当にいろんなことがあったな……。当初思い描いていたちーちゃんの幸せも、叶えることができたし。……こんな日々がずっと続けば良いのに。そうは思うけど、現実の家族も私の大切な人達だ。絶対に帰らなければとも思っている。ちーちゃんの笑顔を見つめながら、解散になるまで私はずっとそんなことを考えていた。




姫乃の開いてくれたパーティーから帰ってきた後、私達はだらだらと同じ部屋で過ごしていた。


「じゃあ、私はそろそろ自分の部屋に戻るね」


ちーちゃんが立ち上がると、私は慌てて読んでいた本を閉じ、同じように立ち上がる。


「おやすみ、ちーちゃん」


私が抱きしめると、微かにちーちゃんの身体が強張るのを感じた。不安になってすぐに離れると、ちーちゃんは深呼吸をして言った。


「おやすみ、七瀬ちゃん」


私の頬にちーちゃんの柔らかい唇があたる。


「……え、えっ!?ちーちゃん……!?」


「じゃ、じゃあまた明日ねっ」


私が何か言う前に、ちーちゃんは顔を真っ赤にさせながら行ってしまった。残された私も一人、心拍数と体温が上がっていく。しばらくその余韻に浸っていると、少しずつ意識が遠のいていくのが分かった。あれ、この感覚……前もどこかであったような……。


意識を手放しながら、ドサリと自分の身体が床に倒れる音を聞いた。

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