それぞれのクリスマス

「あれっ、万里君……?」


二人で帰路を歩いていると、前方に万里君を見つける。同級生っぽい女の子と一緒だ。もしかして、この間言っていた告白相手の子だろうか。


「万里、可愛い子といるね……彼女かな?」


「多分、そうかも」


二人でこそこそ話していると、向こうの方から私達に気づいて駆け寄ってくる。


「姉さん達も、この辺に来てたんですね」


「うん。万里は、デート……?」


「そうだよ。木月きづきさん、僕の彼女」


万里君が木月さんの方を手で示しながら言うと、木月さんはぺこりと私達にお辞儀をした。綺麗な黒髪がさらっと揺れる。姫乃とは種類の違うお淑やかさと、大和撫子然とした雰囲気があった。


「可愛い彼女さんだね。はじめまして、万里の姉の千尋です」


「はっ、はじめましてっ……。木月華きづきはなです」


緊張しているのか少し声がうわずっている。寒さでほんのり赤く染まった頬が可愛らしい。私も自己紹介しないと……えっと、ちーちゃんの友達ってことでいいか。


「私は、千尋さんの――」


「隣にいるのが、梅原七瀬さん。私の大事な人だよ」


私の言葉を遮ってはっきりと言い切ったちーちゃんに、ぎょっとしてしまう。ちーちゃんの方を見ると、いつもと変わらぬ微笑みを浮かべていた。万里君は呆れた表情をしている。木月さんには、どう思われたんだろう……。


「お二人とも、仲が良いんですね」


はんなりとした笑顔を浮かべた木月さんに、ほっとする。これからツリーを見に行くという二人に、あまり遅くならないようにとちーちゃんが言って、手を振って別れた。


「さっきは遮っちゃってごめんね」


もじもじと恥ずかしそうに言うちーちゃん。


「全然気にしてないけど……びっくりしたよ。万里君はともかく、木月さんがいる前でその……大事な人って」


「大事な人」を口に出すとき、ちーちゃんと同じように恥ずかしくなってもじもじとしてしまった。ちーちゃんは、こちらからでも分かるくらいに赤面している。


「う~……ごめんね、私すっごく浮かれちゃってるのかも」


そう言って、繋いでいない方の手で自分の顔を隠した。その仕草もたまらなく可愛くて……多分、今私の頬は緩みきっていることだろう。


「可愛いから大丈夫。それに……大事な人って紹介してもらえて嬉しかったし」


なんとなく甘酸っぱい雰囲気になっていたところで、前方に驚くべき光景があって私達は立ち止まった。


「あら、あなたたちもデート?」


そこには上機嫌な志歩と、でっかい箱を背負った早貴がいた。


「うん、そうだよ~。志歩ちゃんたちも、デートなんだね」


「ふんっ……まあ、そんなところね」


言葉とは裏腹に嬉しそうな志歩。その隣に立つ早貴が背負っている箱は、本人と同じぐらい大きい。明らかに周りの注目を集めていた。


「もしかして、その箱……」


私が驚きながらもつぶやくと、早貴は平然とした顔で答える。


「クリスマスプレゼントだが、何か問題あるか?」


「ううん、何も問題はない……んだけど、運ぶの大変そうだね……」


「いや、普通だぞ?」


いやいや、全然普通じゃない。現に周りの人みんな早貴の背負う丁寧にプレゼント包装された箱を見ているじゃないか。私が唖然としていると、志歩は嬉しそうに言った。


「早貴様、私が車で運んだ方が良いって言っても、「これは私が晴奈のために買ったプレゼントだ。だから、私が運ばなければ意味がないだろう」ですって……格好良いでしょう?」


「あーうん、そうだね」


「ちょっと……!何よ、その適当にあしらっとけばいいやみたいな返事は!」


姫乃に対するときと同じようなスイッチが入ってしまったようで、前のめりになる志歩。早貴はそんな志歩の肩をぽんっと叩き、


「今日はお前の誕生日だろう?プレゼントも早く見てもらいたいし、早く晴奈の家へ行こう」


と言って宥めると志歩も納得したようで、二人は歩く度に周りの注目を集めながら歩いていった。そんな二人の後ろ姿を見送ると、私とちーちゃんも手を繋ぎ直し再び家への道を歩く。


街から外れると、途端に静かになった。ふと聞きたくなって、ちーちゃんの横顔を見つめながら尋ねる。


「ちーちゃん……今、幸せですか?」


少しの間を空けることなく答えが返ってくる。


「うん、すっごく幸せだよ」


私の大好きな、天使みたいな笑顔を浮かべて。私は胸がいっぱいになって、何故だか泣きそうになった。それを表には出さないようにしていたのに、何かを察したのかちーちゃんは急に立ち止まる。そして、私をぎゅっと抱きしめると言った。


「七瀬ちゃんのおかげで、私は今とっても幸せです」

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