志歩の悩み②

放課後、志歩と共に早貴が剣道部に行くのを追う。こそこそとしながらも、早貴には絶対に気付かれているような気がしてならない。


「部活が終わるまでで良いんだよね?」


「あんたねー、それじゃ意味がないじゃないの。早貴様が私に隠れて何かしてるのは部活の後。だから、あんたに本格的に見張ってもらうのは終わってからってこと」


「えっ……そんな後まで!?」


せいぜい見張るのは学校生活の話だろうと思っていた。驚いて早貴を追っていた足を止める。


「暗くなってからじゃ危ないだろうし、さすがにずっととは言ってないわよ。ただ、部活が終わってからどこで何してるのか……それを確認してくれたら帰って良いわ。連絡くれたら車も迎えに行かせるし」


志歩は、最後の一言を軽く言ってのけると尾行を続けるよう促す。忘れていたけど、志歩も姫乃の家と同じくらいお金持ちなのだ。


「それはありがたいけど……でも、じゃあ、何で部活まで着いていくの?」


「それは、これが私の日課だらかよ」


志歩がそう言ったところで、体育館に着いた。私たちはそのまま、邪魔にならないような場所に並んで座る。そして、部活も終わり、志歩がいつもしているらしい日課を終わらせるといよいよ私の出番となった。


「私が着いていくと気づいて撒かれちゃうけど、あんたなら大丈夫だと思う」


志歩のそんな無責任な言葉を背に、私は部活帰りの早貴の後を着いていった。




「……梅原。私を尾行するなら、もう少し上手くやったほうがいいぞ」


刑事ドラマか探偵ドラマで聞いたことあるようなセリフとともに、早貴はこちらを振り向いた。驚きで心臓が跳ね、立ち止まって一時停止する。学校を出てからしばらく歩いたところで早々に気づかれてしまった。足音に気をつけたり、物陰に逐一隠れたり、細心の注意を払っていたつもりなのに。


「多分なんだが、晴奈から頼まれたんだろう?」


「そ、そうです……」


「全く、心配することはないって言ったはずなんだがなあ……」


早貴は困ったように苦笑を浮かべた。


「最近、志歩を避けてるみたいなのはどうしてなの?」


「避けてないさ。ただ、どうしても秘密裏に成し遂げたいことがあってな」


「成し遂げたいこと……?」


「クリスマスプレゼントの資金のために、バイトを増やしたんだ」


早貴が言うには、元々一人暮らしの生活費のためにアルバイトをしていて、それでは足りなくなってバイトを増やしたらしい。元々のアルバイト先は志歩に知られているから、そこだと勘づかれてしまうかもしれない。理由を言わなくても、掛け持ちまでしていると知ったら志歩は心配して辞めるように言うだろう。だから、普段から志歩に気づかれないように振る舞っていた、と。


「いつも世話になっているからな。盛大なプレゼントをあげたいんだ。なんたって、クリスマスは晴奈の誕生日でもあるからな」


「でも、不安になってるみたいだし……せめて、部活帰りとかは今まで通りにさせてあげたら……?」


「まあ、確かにそれもそうだな」


早貴は納得したような表情をしてそう答えた。それを見て私もほっと一安心した。でも、肝心の志歩には何と言えば良いのだろう。途中で見失ったと言っても、また次の日に持ち越されるだけだろうし……。


「このことは、晴奈には言わないでおいてくれないか?頼む」


「それはもちろん約束するけど……うーん、志歩にはなんて言おうか……」


「そうだな……」


私が頭を悩ませていると、早貴も腕組みをして考えた後、顔を上げて言った。


「いや、梅原が何か言う必要はない。私がなんとかする。これ以上、迷惑かけるわけにはいかないからな」


「でも、一応頼まれたわけだし……」


「元々無茶な注文だったんだ。晴奈も別に気にしないだろう」


その後何回かこのやり取りをしたものの、志歩への言い訳も思いつかなかったため、お言葉に甘えることにした。


帰り道、一人歩きながら、ふと思う。クリスマスプレゼント、か……。私も、ちーちゃんに何かあげたいな……。そうだ、クリスマス。クリスマスだ。イベントがある特別な日なら、踏ん切りもついて想いを伝えるのに丁度良い。


その日私は帰ってすぐ、ちーちゃんにクリスマスの予定を聞いて約束を取り付けた。

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