志歩の悩み①

紅葉も次第に枯れ始めた頃。ちーちゃんとカフェテリアで昼食をとり、教室に戻る途中、


「ねえ、ちょっと」


仁王立ちの志歩に話しかけられる。私達が立ち止まると、志歩は私だけに目を向けて言った。


「あんたに、聞いてほしいことがあるんだけど」


「えっ、私に!?」


「驚いてないで、さっさとこっち来なさい!」


志歩は私の腕をつかむと、ぐんぐんとどこかへ向かって進んでいく。慌てて後ろを振り向き、ちーちゃんを見ると「いってらっしゃい」とにこやかに手を振っていた。見捨てられたような気持ちになりながらも引っ張られるままについていくと、保険室に辿り着く。


「先生に何か用事?」


怪我をしているようでもないし、体調が悪そうにも見えない。


「だーかーら、聞いてほしいことがあるって言ったじゃないの!保険室に来たのは、場所借りるだけ」


あ、そういえばそうだった。


「ごめん、忘れてた。……ってそれより、なんで私なの?」


「早貴様に近い人には、ちょっと話しづらくって……あんたが丁度良いかなって」


だから、ちーちゃんや那月じゃなくて私だったのか。姫乃とは普通に話はできなさそうだしね……。私が納得すると、志歩は掴んでいた腕を離してくれた。事前に海谷先生には話を通してあったようで、私達が入っていくと先生は「空いてるわよ-」と一言だけ言ってすぐに書類に視線を戻した。私達は、そのまま保健室の隣にある保健相談室を借り、向かい合って座る。


「それで、話って何なの?早貴についてなんだよね」


私が聞くと、志歩は神妙な顔をして言った。


「最近、早貴様が構ってくれないの」


「……って、それだけ!?」


「それだけって何よ!私にとっては死活問題なんだから!」


そういえば、海に行った時も同じようなこと言っていたような。あの時は流れで隠れていたから志歩には秘密だけど。


「そんな大袈裟な……忙しいだけなんじゃないの?」


「それがね……構ってくれないだけじゃなくて、私に隠れて何かやっているみたいなの」


「何かって?」


「それが分からないから、これからあんたに調べてきてもらうの!」


「えっ、私が……!?」


「そうよ。何か文句ある?」


腕組みをしながら当然だと言わんばかりの顔をしている志歩。これは断れないやつだ……と思いながらも、試しに言ってみる。


「えっと……他に頼める人はいないの?」


「あんたが一番適役よ」


有無を言わせない圧を感じて、私は渋々頷いた。


「分かった分かった。早貴の動向を調べれば良いんだよね?」


「そうよ。……その、ありがとね」


顔を背けながらも、声のボリュームを小さくしてお礼の言葉を言う志歩を見て微笑む。姫乃といるときはいつも突っ張っているけど、素直なところもあるじゃない。それにしても……早貴なら、別に志歩が心配するようなことはしていないと思う。だからこそ、あの早貴が隠れて何かやっているっていうのは気になるな。


志歩に念を押され、私は結局今日の放課後から早貴の動向を見張ることになった。

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