自覚した気持ち

寄りたい所があるという結佳ちゃんと途中で別れ、一人で別荘に戻るとやけに静かだった。まさかと思って二階へ上がり、ちーちゃんの部屋の扉をノックしたけれどやはり不在のようだ。どこに行ったのだろう。私が首をかしげていると、丁度隣の部屋から姫乃が出てくる。


「ちーちゃんなら海へ行ったわよ」


「海に……?一人で行ったの?」


「ええ。屋台で売っている物が食べたかったんですって。ついでに海を眺めに行くって言っていたわ」


姫乃にお礼を言うと、私はすぐに海へ向かった。昼過ぎの海はやはり混んでいる。日差しに手をかざして辺りを見回した。ちーちゃんはどこにいるのだろう。もう食べ物を買い終わって、屋台から離れた場所にいるだろうか。しばらく人の波をぬうように歩いていると、若い男性の声と、困惑したようなちーちゃんの声が聞こえてきた。慌てて声の方へ駆け寄る。


「あの……っ、一人で食べるので大丈夫です……」


「そんなこと言わずに、俺らと一緒に食べようよー。一人で食べるより、大勢で食べた方が楽しいじゃん?」


たい焼きの袋を抱えて心細そうに立つちーちゃん。その肩に、日焼けして遊び慣れたような雰囲気を持つ男性が手を回している。その後ろには同じような雰囲気の男性と、数人女性が混じっている。その様子を見て、かっとなった私は何も考えずにその場へ飛び出した。


急に近づいてきた私に、その場にいた全員が注目する。あ、あれ……この後どうすればいいんだ?考えなしに動いてしまったけれど、一瞬思考が停止する。焦りながら頭を回転させていると、突飛なアイデアが思いつく。そういえば……恋愛系の漫画とか映画でこういう状況になって彼女が絡まれている時、こんなセリフを言っていたような。記憶をたぐり寄せて必死に考えた策がこれだった。


「こ、この子、私の女なので!失礼します……!」


言いながらちーちゃんの手をぎゅっと握ると、一目散に駆け出した。人混みに紛れて、見えなくなるだろう場所まで走ると、体力の限界でその場にへたり込む。しっかりと繋がれた手を確認し、ちーちゃんの方を見た。ちーちゃんも砂浜に腰を下ろし、私の方を見ている。ばちっと目が合って、なんともなしに笑い合う。


「さっきのセリフ、似たようなの少女漫画で見たことある……ふふっ」


「だって、咄嗟に出てきたのがあれしかなかったんだよ……」


冷静になって、さっきのことを思い返すと無性に恥ずかしくなってきた。勢いで勝手に私の女だなんて言ってしまったことにも今更後悔する。女同士なのだから、友達だと言って連れ出してきてもよかったかもしれない。それでも咄嗟に言ってしまったのは、もしやそれが私の願望だからなのだろうか。


おかしそうに笑うちーちゃんに恥ずかしいのを隠したくてむくれる私。そうしていると、次第にちーちゃんからの視線を感じた。不思議に思って目を合わせる。その瞬間、ちーちゃんは私にぎゅっと抱きついてきた。私が驚いて目をぱちくりさせていると、ちーちゃんは私だけに聞こえるぐらいの小声で言った。


「七瀬ちゃん、可愛い」


「可愛いのはちーちゃんだよ……?」


咄嗟にそう返すと、ちーちゃんはそれには答えずに、


「助けてくれたのも、あの言葉も、とっても嬉しかったよ」


優しい声でそう囁き、私の頭をなでた。いつも、守りたいと思うぐらい華奢で、ぽわぽわしていて可愛いのに……時々こんな風にお姉さんみたいに包み込まれる。不思議な子。もっと知りたい。私は、自身の鼓動の早さを感じながら抱きしめ返す。


ああ……私、ちーちゃんのこと好きなんだ。心地よい熱に包み込まれながら、そう確信した。

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